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第183話 ついに帝都の中に あれ? 入れない?

そして、ついにヴェゼルたちは帝都の門前にたどり着いた。


帝都というだけあって、その城壁はただの防御の壁ではなかった。見上げれば空を切り裂くようにそびえ立つ石の巨壁。


灰色の岩が幾重にも積み重なり、まるで山そのものを削り出したかのような威容を誇っていた。


外の荒野を行き交う旅人や商人たちが思わず足を止め、口を開けて見上げてしまうほどだ。


「うわぁ……すごい。僕、こんな巨大な壁、初めて見ました」


ヴェゼルが素直に感嘆の声を漏らす。


「これが帝都だ。外から来る者にまず“力”を見せつける仕組みになってる。攻めようなんて気を起こす奴は、ここで心を折られるだろうな」


ルークスが感心したように唸ると、サクラがポケットから顔を出して、ひょいと壁を見上げた。


「文明の塊ね。これ、絶対に作るのに何百年もかかってるでしょ。田舎育ちのヴェゼルには眩しすぎね!」


「ちょっと! 僕を勝手に田舎者扱いするなよ!」


「え? 違うの? ビック領って田舎でしょ?」


「う……それはまぁ、否定できないけど」


サクラの軽口に、ヴァリーが吹き出しそうになりながらも口元を押さえた。


――さて、問題はその入り口だ。


帝都の正門には二つの列ができていた。左側の列は妙に長く、立派な衣装の人々が並んでいる。


馬車や従者を従え、金や宝石で飾った馬具がきらびやかに光っていた。右の列は比較的短く、荷を積んだ商人や旅人、傭兵風の一団がぽつぽつと続いている。


「左は貴族用の門だな」ルークスがすぐに見抜く。「右は一般。俺たちが普通に入るなら右側だ」


「でも、お父さんからこれを預かってるんです」ヴェゼルは銀の紋章入りメダルを取り出す。


「それがあるなら、左の列に並んでもいいかもしれませんね」ヴァリーが頷く。


「ふっふーん。つまりヴェゼルは立派な貴族のお坊ちゃまってわけね!」



結局、左の列に並んでみることになった。意外にもすぐに順番が回ってきた。どうやら身分証明を持っている者は入場が早いらしい。


馬車ではなく馬を三頭引き連れて、大人の男女と子供が一人。そして荷物も少なく、見た目は薄汚れて浮浪者同然。ヴェゼル達のみすぼらしい格好に、守備兵たちはすぐに眉をひそめた。




「ここは貴族専用の門だ。お前らのような貧相な連中が並ぶ場所ではない。どういうつもりだ?」


その声に、ルークスはちらりとヴェゼルを見る。ヴェゼルは深呼吸して一歩前に出ると、預かった銀のメダルを差し出した。


「これは……?」守備兵が受け取るとしげしげと眺め、ヴェゼルに問いかける。


「これがなんだというのだ?」


ヴェゼルは一拍置いて、堂々と名乗った。


「ビック領、フリード・フォン・ビックの嫡男、ヴェゼル・パロ・ビックです。皇妃様に品物を献上するために参上しました」


その名を聞いた瞬間、守備兵の目が大きく開かれた。だがすぐに、ひそひそと周囲で囁きが広がる。


「まさか……あの万年騎士爵の家か?」


「嫡男っていうと、聞いたことがあるぞ。“ハズレ魔法のスケコマシ”って……」


その一言に、ヴァリーの表情が凍りついた。次の瞬間には怒りで顔を真っ赤に染め、杖を構える。


「無礼者ッ! 初代皇帝直参の家の嫡男を侮辱するとは! お前ら、私の魔法の塵となれ!」


「おいおいおい! 待て待て!」ルークスが慌てて彼女を押しとどめる。


そこへその声を聞いたのか守備隊長が慌てて現れた。鋭い眼光で部下たちを一喝する。


「何事だ。……魔法を行使しようとするとは穏やかではないな?」


ヴァリーが一歩前に出て、強い声で答える。


「我らはビック領フリード・フォン・ビックの嫡男、ヴェゼル・パロ・ビック様とその一行だ。皇妃様に品を献上するために参った。私はその従者、ヴェゼル様の婚約者である、元魔法省第五席――ヴァリエッタである」


その名に、隊長の目がかすかに見開かれた。


「……氷のヴァリー……!」


彼はすぐに深く頭を下げた。


「先ほどの非礼、誠に申し訳ない。まさかあなた様であったとは」


だがヴァリーは収まらない。


「謝罪するならヴェゼル様にだ! こやつはヴェゼル様を“ハズレ魔法のスケコマシ”と呼んだのだぞ!」


その言葉に、問題の守備兵は顔を青ざめさせて縮こまった。隊長は冷たい視線を彼に送り、守備隊の手に握られた銀のメダルに気づく。


「……おい、そのメダルを見せろ」


取り上げて確認した隊長の顔がみるみる蒼白になった。


「こ、これは……皇帝直参の証……! このメダルを持つ者を、帝都においていかなる時も阻んではならぬという……!」と、呟く。


次の瞬間、問題を起こした兵士は地面にひれ伏し、土下座して許しを乞うた。


「ひぃっ、申し訳ありませんでした! 決して悪意があったわけでは……!」


ヴェゼルには、その隊長の呟きは聞こえなかったが、とりあえず、大きくため息をつき、首を振った。


「もういいです。入れていただけるのなら、問題ありません」




隊長は頭を下げたまま感謝を述べ、兵士たちは慌てて門を開いた。ヴェゼル一行はようやく帝都へ足を踏み入れたのだった。


――しかし、空気を読まないのがサクラである。


ポケットの中から小声で囁いた。


「ふふっ、やっぱりヴェゼルは『私みたいな美女』にも愛されてるけど、揉め事にも愛されてるのね!」


「聞こえてるぞ!」ヴェゼルが慌ててポケットを押さえる。


ルークスは肩を震わせ、ヴァリーも堪えきれずに吹き出した。


「ふふっ……ほんとに手間のかかるご主人様ですね。うふふ」


「そりゃ、スケコマシだからな!」ルークスがすかさず追い打ちをかける。


「うわぁぁ! もうやめてよょぉぉぉ!」


帝都の門をくぐった瞬間、ヴェゼルの情けない叫びが仲間の人々の笑いを誘った。


こうして彼らの帝都での新たな物語が幕を開けた――。



あ、ついに累計200話投稿。

おめでとうわたし! 略して、おめわた!


ヴァリーさんはヴァリエッタでしたね。忘れてました。

ちなみにアビーの本名はアヴェニスです。。

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