第20話 翌日朝から父と
朝の光が窓から差し込み、ホーネット領の静かな食堂をほんのりと照らしていた。
ヴェゼルはまだ眠たげな目をこすりながら、オデッセイの準備した温かい朝食を口に運ぶ。
パンの香ばしさとスープの柔らかな香りが、旅の疲れと昨日の鑑定の緊張をゆっくりと溶かしていく。
アクティはまだ髪の毛を寝ぐせだらけにして、母の膝の上でくるくると手を動かしながら食卓に向かっている。
「さあ、今日から剣の基礎を始めるぞ」と、フリードが大きな声で宣言する。
腕にはまだ昨日の食事の油が少し残っているが、、、それも気にせず長剣を持つ姿は、まるで戦場での一撃を思わせる威圧感を放っていた。、。腕、、、
ヴェゼルは小さく頷き、「よし、まずは焦らずに型を覚えるんだ……力任せじゃダメだ」と心に決める。
フリードはまず立ち方、足の位置、体の重心の置き方を丁寧に教える。
「剣は腕で振るものではない。体全体を使うんだ。足を踏み込み、腰を回す、そして肩と腕を連動させる」
ヴェゼルは小さな体で一つひとつの動作を真似しようとするが、まだ筋力が弱く、剣を持つ手も震える。
それでもフリードは焦れったそうに眉をひそめるだけで、決して手を出さず、ただ口で指示を続ける。
「右足を前に、左足は斜め後ろ。重心は腰の高さ、剣は肩の高さで保持。振るときは体を回して力を全体で伝えるんだ」
ヴェゼルは何度も足を踏み直し、剣をゆっくりと振る。小さな体の割には意識が鋭く、「うーん、この角度をもう少し調整すれば、効率よく力が伝わる……」と計算しながら、体に無理のない範囲で動かす。
アクティはまだ興味津々で、兄の真似をしようと小さな木の棒を手に取り、床で振り回す。フリードは眉をひそめつつも、「……まあ、元気があるのはいいことだ」と微かに微笑む。
フリードは次に、基本の斬り方の型を教える。上段、中段、下段、それぞれの構えから剣を振り下ろす動作だ。ヴェゼルは体の重心を意識しながら、剣の軌道を確認し、振り下ろす。
まだ力は十分に伝わらないが、フォームの正確さに集中することで、少しずつ動作が滑らかになっていく。
フリードは口を出しながらも、的確にアドバイスを与える。「腕は無理に振るな。腰と肩の回転で剣を動かす。力は体全体で伝えるんだ」
ヴェゼルは汗をかきながらも、少しずつ型を覚えていく。
分析しつつ、二歳体で動く――不思議な感覚だが、脳が過去の経験を参照して動作を補助するため、型の習得は想像以上に速い。
フリードも少し驚きながら、「……こいつ、覚えるの早いな」と呟く。
訓練が進むにつれ、ヴェゼルは剣を持つ手の力加減、体の傾き、足の踏み込みのタイミングを体得し始める。
まだ攻撃力は弱く、剣を振っても風を切る音すら頼りないが、フォームは徐々に美しくなっていく。
フリードは「いいぞ、その調子だ!」と大きな声を上げ、褒め言葉をかける。ヴェゼルは小さく頷き、息を整えながら「よし……次も頑張ろう」と心の中で自分を奮い立たせる。
休憩時間には、アクティがヴェゼルの剣を横目で見ながら、木の棒で真似をする。ヴェゼルは微笑みつつ、「無理はしなくていいぞ」と声をかけ、アクティの好奇心を尊重する。
フリードは少し呆れながらも、二人のやり取りを見守り、家庭の温かさを感じる一瞬でもあった。
訓練が終わる頃、ヴェゼルは汗だくになりながらも、剣の基本動作をひと通り覚えた。フリードは満足そうに剣を置き、「まずは型を覚えた。次はこれを応用して、軽い攻撃練習だ」と宣言する。
ヴェゼルは小さな体で肩を回しながら、「次も頑張ろう」と前向きに息を整える。
オデッセイはそんなヴェゼルを見つめ、「体だけでなく、頭も使って型を覚えられたわね」と褒める。
ヴェゼルは照れくさそうに微笑むが、内心では「これが基礎だ……ここから応用が始まる」と期待と緊張で胸が高鳴る。
基礎訓練は、体に負荷をかけるというよりも、フォームと意識の理解に重点を置く。
剣を持つ感覚、重心の移動、振り方の軌道――これらを体に刻むことで、将来の戦闘力の土台を築くのだ。
ヴェゼルは汗を拭きながらも、確実に一歩ずつ成長している自分を感じ取り、「よし、これなら応用も問題なく進める」と安心する。
アクティは疲れた兄を見上げ、「わたしもやる!」と再び木の棒を持ち上げる。
ヴェゼルは笑顔で手を差し伸べ、「一緒にやるか」と誘い、二人の小さな剣の練習が、家族の温かい笑い声と共に穏やかな光の中で続いていった。




