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第182話 道中 その匂いも愛だろっ。

道中では、森や草原を抜けるたびに魔物と何度も遭遇した。


最初のうちは、ヴァリーが得意の魔法であっさりと片づけてしまう。


最近はヴェゼルから教わった「ジェットカッター」を多用していて、鋭い風の刃が魔物を一瞬で切り裂いていた。


その魔法は魔力の消費が少なく扱いやすいため、彼女にとっては便利な得物になっていた。


「ほら、まただよ。あのボア、切った瞬間に真っ二つだね」


ルークスが感心したように言う。


「そうですね、やっぱり軽く使えるから楽ですね。ヴェゼル様に教えてもらって本当に助かりました」


ヴァリーは微笑みながら答える。


「えっへん。僕の教え方が良かったからでしょう?」とヴェゼルが胸を張ると、ヴァリーが苦笑し、ルークスは肩をすくめた。


魔物との戦闘中でも、彼らの会話は途切れない。時に冗談を言い合い、時に真剣な指摘を交わす。


「お前ら、戦闘中に冗談やってんじゃねえよ。ほら、まだ残ってる!」


ルークスが矢をつがえ、残った敵を仕留める。


その様子を見ながら、ヴェゼルの肩ポケットからサクラが顔をひょこっと出した。


「退屈ーー私も何か討伐する!!」


「……はいはい、サクラまで調子に乗らなくていいから!」


ヴェゼルが苦笑すると、ルークスはしっかり残党を仕留めていった。


流石に行商経験が長いと色々な武器を扱えるようだ。ただし、ルークス曰く、「見様見真似だ」と笑う。ほどほどに武器はなんでも使えるということだった。


魔物が食べられる種類の場合、ルークスは必ず声をかける。肉や皮が利用できる獲物なら、仕留め方を工夫し、夜の野営では手際よく解体して夕飯にする。残った食材は容量は限定的ではあるが、ヴェゼルの収納魔法に仕舞われ、後日の糧となった。


「この部位は旨いぞ。焼いても煮てもいける。……っと、こっちは毒があるから気をつけろよ」


「へぇ、ルークスおじさんは本当に何でも知ってるんですね」ヴェゼルが素直に感心すると、彼は鼻を鳴らす。


「実地で覚えただけだ。生き残りたいなら嫌でも詳しくなるんだよ」


するとサクラがニヤリと笑って、「ふーん……おじさんって呼ばれてるの、気にしてるでしょ?」と茶化す。


「うるせぇ! 俺はまだ若い!」


「でもオーラが“オヤジ臭”してるよ」


「お前なぁ!」

二人のやり取りにヴェゼルとヴァリーが笑いをこらえると、ルークスは照れ隠しに鼻を鳴らした。


旅の後半からは、ヴェゼルも剣の修練を始めた。


ホーンラビットやゴブリンといった比較的弱い相手を選び、ぎこちないながらも挑戦を続けるうちに、次第に体が慣れて余裕をもって対処できるようになっていった。


十日も経つ頃には、小規模の魔物の群れ程度なら十分に対応できるほどに成長していた。


「はぁ……よしっ! やったぞ、今のは一撃で倒せた!」ヴェゼルが剣を振り抜いて息をつく。


「おお、いいじゃないか。前よりだいぶ様になってきたな」ルークスが評価する。


「そうですね? 剣って、やっぱり思ったより奥が深いなぁ」


「最初から魔法に頼ってばかりじゃ駄目だってことです。身体で覚えるのも悪くないでしょう?」


ヴァリーが誇らしげに微笑む。


サクラは剣先にちょこんと座り、にやにやとヴェゼルをからかった。


「でも、斬った後に“かっこつけポーズ”までしなくてもいいんじゃないの?」


「な、してないよ!」


「顔が“どうだカッコいいだろ”って言ってるもん! まぁ、ヴェゼル、ちょっとはかっこいいけど……」


「うぅ……」


そのやり取りを見て、ルークスが腹を抱えて笑った。


夜になると、寝袋に包まれたヴェゼルはヴァリーに抱かれて眠った。寒


さに凍えることもなく、安らかな眠りにつけるのは彼女の温もりのおかげだ。しかし、そのたびにルークスがからかいに来る。


「おいおい、毎晩ぴったりくっついて寝て、仲良しだなぁ」


「う、うるさいな……! 別にいいでしょ!」


「くっそー……俺だって抱かれて寝たいわ。……いいなぁ……」


「ルークスさんも誰か抱きしめてくれる人見つければいいんですよ」


サクラが「抱き枕でも買えば?」と無邪気に口を挟む。


「うるせぇ! 余計なお世話だ!」


結局、羨ましげなため息で締めくくられるのが、彼らの日常になっていた。




さらに道中では盗賊らしき一団を見かけることもあったが、彼らはこちらを襲ってはこなかった。人数が少ない上に馬も速かったため、標的にしなかったのだろう。


「へぇ、あれって盗賊ですか?」ヴェゼルが警戒して尋ねる。


「見た目はそうだな。でも人相の悪い旅人って可能性もあるしな」ルークスが冷静に観察する。


「どっちにせよ、向こうから仕掛けてこない限りは無視でいいだろ」


さらに彼の話では、普段は商人をやりつつ、獲物があれば盗賊に化ける連中もいるらしい。


「……怖いですね、それ」ヴァリーが小さくつぶやく。


「ほんとだね。あれはあれで生活の知恵……なのかな?」サクラが小首をかしげると、


「いや、あんまり感心するなよ!」と全員で同時に突っ込み、場が和んだ。




帝都まであと一日という夜、疲労と埃にまみれた三人は野営地で休んでいた。


体は拭いてはいたが、もう何日も風呂に入っていないため、ヴァリーは気恥ずかしそうにヴェゼルと距離を取ろうとする。


「すいません、ヴェゼル様……わたし、もう何日もお風呂に入ってないから……臭いかも」


「そんなことないですよ。僕だって同じだし。……それに、ヴァリーさんの匂いなら気にしませんよ」


「のろけだ! のろけ発言出ましたー!」とサクラが大声でからかい、ヴァリーは慌てる。


ルークスは笑いながらも、「ははは! お前、変態だな!」と突っ込み、さらに真顔で続けた。


「けどよ、それが“全部ひっくるめて好きだ”ってことなんだろ? いいことじゃねぇか」


普段おちゃらけている彼の真剣な言葉に、ヴェゼルとヴァリーは同時に顔を赤らめ、照れくさそうに視線を逸らした。




そして翌朝。ついに長い旅路の果てに、壮麗な帝都の門が姿を現した。


「うわ……! あれが帝都か……!」ヴェゼルが息をのむ。


「やっと着いたな。さぁ、ここからが本番だ」ルークスが真剣な顔になる。


「うん……ドキドキしてきた」ヴァリーも胸を押さえた。


サクラがぴょこんと飛び上がって叫ぶ。


「ついに来たね! 文明の香りがぷんぷんする大都会だぁ!」


「……サクラの表現って、なんか違うんだよなぁ」ヴェゼルが苦笑し、仲間たちは新たな冒険の始まりを前に笑みを交わした。


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