第171話 ガラつく ガラスを作ろう!
その日、領館の広間は、なんだかいつもより空気がざわざわしていた。
というのも、ヴェゼルが「事前に説明してマイラーさんとサニーさんを呼んである」と宣言したからだ。
「おおっ、ついに陶器職人親子が来るのか!」
ルークスが早くも妙にソワソワしている。
そこへ、勢いよく扉が開かれた。
「おおっ! ヴェゼル様ーっ! お呼びいただき感謝いたします!」
まるで飛んで来たかのように登場したのは陶器職人、サニーさん。
後ろには父のマイラーさん、そしてもう一人、見知らぬ青年がついてきている。
「サニー、落ち着つけ……!」マイラーさんが慌てて袖を引っ張る。
「でも! ガラスの話を聞いたら血が騒いで止まらないのよ! 白磁、そこに新素材ガラスよ! 陶器職人の夢なのよ!」
マイラーさんは苦笑しながらも、ヴェゼルに会釈した。
「お話は伺っています。今日は娘だけでなく、従兄弟のクラフトも連れてきました」
「クラフトです!」と青年が元気よく名乗り出る。
「研究や新しいものに目がなくて……ぜひガラス製作に挑戦したいんです!」
クラフトさんは目をキラキラさせていて、すでに頭の中でガラス炉や配合を組み立てている様子だった。
マイラーさんは大きな身振りで説明を始めた。
「実は、わしは今、白磁の大仕事を抱えておって、手を離せんのです! 白磁はわしの魂! 完成までは死んでも投げ出せません!」
「お父さん、勝手に死なないでくださいよ……」とサニーさんが冷静に突っ込む。
「で、サニーはサポートはできるんですが、白磁と掛け持ちになるから、ガラスのメインは難しいのです」
サニーさんも小さくうなずいた。
「私も興味はあるんですが、まずは白磁の仕事を優先したいんです。ですがこのクラフトなら陶器の知識もあって、新しいものに挑む根性もあります。それに新たな情報を秘匿するなら、今回は彼が適任かと」
クラフトさんは胸を張り、「やります! 絶対にやり遂げます!」と宣言する。
ヴェゼルは母オデッセイに目を向けた。
オデッセイはいつもの落ち着いた笑みで言った。
「マイラーさんの推薦なら、信頼できるでしょう。若い力に任せるのも悪くありませんね」
こうして、ガラス製作のメイン担当はクラフトさんに決まった。
「それで!」とマイラーさんが急に大声を出した。
「この場を借りて一つ報告があるんです!」
「え、なに?」と一同がざわつく。
マイラーさんは娘とクラフトさんをぐいっと前に押し出した。
「実は――サニーとクラフトは、婚約したのです!」
「えええええーーーっ!!」
広間が一瞬でパニックになった。
「ちょ、ちょっとお父さん! ここで言わなくても!」
サニーさんが顔を真っ赤にして叫ぶ。
クラフトさんはクラフトさんで「えへへ……実は……」と頭をかきながらモジモジ。
「いやいや! 白磁に夢中になっているうちに、ちゃっかり婚約まで……!」とヴェゼルが仰天。
アクティは「いーなー! わたしもはやくこにゃくしゃをきめたい!」とぷんぷん?。
ヴァリーは涼しい顔で「まあ、連絡が密に取れるならガラス製作もスムーズになりますね」と冷静に分析していた。
「なにより!」とマイラーさんは胸を張った。
「ガラス炉が爆発しても、一緒なら幸せだ!」
「そんな前提で話すなーー!」と全員総ツッコミ。
だが結局、領館の面々はすぐに祝福ムードになった。
「サニーさん、クラフトさん、おめでとう!」
「いやぁ、めでたい! めでたい!」
サクラは頭の上で「ケッコン! ケッコン! お祝いケーキ!」と騒ぎ、アクティが「ケーキって何?」と答える。
ヴェゼルが、ヴァリーとサクラに美味しいお菓子を作れと言われて、ケーキだけは話したのだ。ただ、材料がないので、作れないが。……というか、牛乳を確保すればなんとかなるんだよな……と思案顔になる。
フリードは苦笑しつつ「これでまた領の繋がりが強くなるな」と感慨深げに呟いた。
ヴェゼルはハッと、現実に戻り、そうだ!と、ぽんと手を打って宣言した。
「じゃあ……ガラス計画も婚約も、一緒にお祝いをしましょう! 宴だーー!」
「おおおーーー!」
館中が歓声に包まれ、即席のお祝いパーティーが始まった。
マイラーさんはすでに酔っ払いのようにご機嫌で、「白磁も! ガラスも! 娘の結婚も! 全部わしの手柄だ!」と叫び、サニーさんに「お父さん、静かに!」と叱られていた。
クラフトさんは「頑張りますから! ガラスも、結婚も!」と何故か二つ同時に誓い、場をさらに笑わせた。明るい人のようだ。
こうして、ガラス製作計画と婚約報告は、笑いと驚きに包まれながら進んでいくのだった。




