表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

184/349

第169話 ローグ子爵領からの帰還01

ルークスがまたもや、興奮して帰ってきた。


広間の扉を開けた瞬間、彼はまるで戦から勝利して戻った将軍のように胸を張り、息を切らせながら叫んだ。


「やったぞーー! これでガラスが作れる!!」


突然の大声に、館の中にいた一同はびくっと肩を跳ねさせる。


「な、なんだよ、ルークス!」とフリードが驚いて立ち上がる。


アクティは「またなにかやらかしたんじゃないの?」と顔をしかめた。


しかしルークスは気にも留めず、まるで子どもが宝物を自慢するように鼻息荒く報告を始めた。


もともと、この話のきっかけを作ったのはヴェゼルだった。


少し前に、サマーセット領のローグ子爵に会いに行った際、領都モンディアルの外れにある漁村――トール村に立ち寄ったのだ。


そこは豊富な漁港があり、浜辺では朝から漁師たちが魚介類や海藻を干しており、潮風に混じって磯の匂いが漂っていた。


ヴェゼルはその光景を見てひらめいた。


「これだ……! 海藻のホンダワラを灰にしてもらえれば、ガラスの原料になる!」


しかも昆布やテングサ、干物など、食料としても大いに役立つ。


そこでヴェゼルはローグ子爵に「もし可能なら、村で海藻を灰にして、それを定期的に売ってほしい」と申し出たのだった。


子爵は「ほほう、海藻を灰に? 奇妙な話だが、価値があるなら村に仕事を増やせる」と乗り気になり、トール村の漁師たちも「海藻は余るほどあるし、灰にして銭になるなら悪くねえ」と、前向きな反応を見せてくれた。


その後の交渉をより確かなものにするため、ヴェゼルはルークスに白羽の矢を立てた。


交渉ごとに妙な勢いと粘り強さを発揮する彼なら、うまくやってくれると踏んだのだ。


そして今回。


ルークスはローグ子爵領に乗り込み、見事に成果を持ち帰った。


「向こうでホンダワラの海藻を灰にして、それを買い取るってことで合意してきた!」


ルークスは興奮のあまり、机をばんばん叩きながら語る。


「さらにだ! 昆布とテングサ、魚の干物も毎月一回、まとめて購入することに成功した!」


「おおっ!」


その場にいた面々から感嘆の声が上がる。


「これで食卓がもっと豊かになる!」とアビーがぱぁっと笑顔になり、サクラは「おにぎりに昆布が巻けるね!」と両手を打ち合わせた。


一方でフリードは「干物は保存食としてありがたいな」と、実用面を冷静に評価していた。



さらにルークスの報告は続いた。


「それだけじゃない! ビック領からはホーネットシロップとホーネット酒を少量売るって約束もしてきた!」


「はちみつ……じゃなくて、あのホーネットか!」とバーグマンが目を丸くする。


ローグ子爵はその話を聞いた途端、まるで子どものように飛び上がって喜んだそうだ。


「ほ、本当にあの幻の酒を!? 我が領に!? わはははは!」


隣にいた妻のアルト夫人も、「まあ! あの甘いシロップを定期でいただけるなんて!」と、両手を合わせて喜んでいたという。


「そしてだ!」とルークスはさらに声を張る。


「子爵の息子、スイフト君にサッカーボールをあげたら、これがまた大喜びで! その場で兵士や下働きの人を集めて試合を始めちまった!」


その場面を想像した一同は、ニンマリした。


「領主のご子息が泥だらけでボール追いかけてる姿なんて、なかなか見られないですね」とカムリが笑う。


こうした一家の反応を見る限り、交易は順調に続くだろう――とルークスは胸を張った。


そして、今後の取り決めについても報告した。


「行き来は月一回、交易の馬車を出すってことで決めた! 責任者は、元サマーセット領で商人をやってた、今はうちで働いてるジールだ!」


ジールはもともと商才に長けた男で、領内の流通網の整備にも協力してきた。


ルークスの話を聞きながら、皆も「なるほど、あの人なら安心だな」とうなずく。


「護衛はどうする?」とフリードが問うと、ルークスは自信満々に答えた。


「ローグ子爵側は子爵の兵をつけてくれる。こっちも護衛を出すが、当てがある! 俺が選んだビック領の者に任せるつもりだ!」



こうして、ヴェゼルが蒔いた種をルークスが育て、ガラス製作に欠かせない海藻灰の入手ルートが確立された。


しかも副産物として昆布や干物、ホーネット製品まで取引できるようになり、子爵一家との関係もぐっと深まったのだ。


「これで準備は整った! あとは炉を作って、ガラスを生み出すだけだ!」


ルークスは鼻息荒く拳を握りしめる。


館の空気は一気に明るくなり、みんなの胸に新たな期待が膨らんでいた。


次なる挑戦――ガラス計画の幕開けである。







ちなみに、ヴェゼルは、ルークスに1つのお願いをしていた。


次回トール村に行く時までには、サニーに頑丈な蓋付きの壺を5つ作ってもらい、その壺をトール村に持っていく。


そこにイワシをギュウギュウ入れて海水で満たし、縄でぐるぐる巻きにして漏れないようにする。


それを割れないように持って帰ってきてくれないか、とお願いしていた。


不気味な笑顔を浮かべながら。それを見て、ルークスはぎょっとしたと言う。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ