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第162話 ルークスが再びウホウホ状態に突入からの

皇都から帰ってきたルークスは、門をくぐる前からすでに妙なオーラを放っていた。


表情はこれでもかというほど明るく、歩く足取りは軽くスキップ。


遠くから見ても「ああ、こいつ儲かったな」とわかるレベルである。


兵舎の前にいた若い兵士が思わずつぶやいた。


「……あの、ルークスさん……? なんか……跳ねてません?」


「いやいや、跳ねてるどころか飛んでるな、あれ」


「むしろ、あれは“儲かりの舞”だ……」


そんな囁きを背に、ルークスは鼻歌まじりに大広間へ。オデッセイ、ヴェゼル、フリード、ヴァリー、サクラたちが揃う部屋へ飛び込むと――


「おおおお待たせしましたぁーーーっ!!! わたくしルークス、この身を賭して皇都から帰還いたしましたぁーーーっ!!!」


大仰に両手を広げてポーズを決める。誰も頼んでないのに。


「……ルークスおじさん、派手すぎない?」


「うむ。前より顔が金色に見えるな」


「輝いてますね……これは勝ち組の雰囲気が漂ってます」


ヴェゼルたちは呆れ気味だが、本人は止まらない。


「聞いて驚いてほしい! そろばんでございます!!!」


ルークスは机にドンッと木箱を置いた。中には精緻な珠が並ぶそろばん。


「皇都の文官どもが大騒ぎで! “これさえあれば計算が一瞬で済む!”と。ええ、帝国の文官への納入が決まりましたとも! 我が実家、バネット商会も総出で生産体制に入ります! ただし! 1台につき利益の一割はビック領様にお支払いする契約でございます! うははははは!!!」


彼は机をドンドン叩き、天井を仰いで笑い続けた。


オデッセイは静かに微笑んで頷く。


「……想定通りね」


実は事前にオデッセイがルークスと相談し、高品質品はビック領で、民生品はバネット商会でと棲み分けを決めていた。


輸送コストや人員の問題を考えれば、それが最適解。すべては予定調和なのだが、ルークスは完全に「自分の大手柄」と思い込んでいる。


「次にーーーっ! サッカーボールでございます!!!」


今度は革でできた球を放り投げた。受け取ったフリードが不思議そうに見つめる。


「これが……そんなに人気になっなのか?」


「皇妃様は最初ピンときておられなかった! “ただの革玉ではないのか”と。しかし! 皇子様が蹴った! 皇帝陛下が蹴った! 兵士たちが蹴った!! そこからが地獄の熱狂的な時間に入りましたでございます!」


ルークスはその場でボールを蹴って、机にガンッとぶつける。


「おおっと!」


「ちょ、机が壊れる!」


「軍では“体力増強”“信頼関係の構築”“戦術訓練にも応用可能”とまで言われた! 正式導入が決定したのでございます! バネット商会も生産開始! もちろん利益の一割はビック領に!! ふははははは!!!」


彼はまた天井を仰ぎ、両手を広げる。


「そしてそして……最後の切り札ぁぁぁあああ!」


今度は深紅の瓶を掲げる。中身は琥珀色の液体――ホーネット酒だ。


「きたか……」フリードがつぶやく。


「きましたとも! ホーネット酒は、すでに“伝説級”扱い! しかし数が少なすぎる! 皇室とベントレー公爵への納品が最優先、それ以外はバネット商会が交渉カードとして保持する形となりました! 皇都の高位貴族から下位の商人まで、誰もがこの酒を欲しがる! まさに交渉の切り札! 金より価値あり!」


「それって……売るってより、見せびらかすやつじゃん」ヴェゼルがぼそりと突っ込む。


「その通りぃぃ!! 売らずして最強の交渉材料ぅ!! わたしは今、商売の神に愛されているぅぅぅ!!!」


ルークスは突然「ウホウホ」と叫びながら、両腕を胸の前でクロスし、猿のように飛び跳ねた。


「ちょ……おじさん!? 壊れた!?」


「いや、むしろいつも通りだな」


「ウホウホウホーーー!!!」


場の空気は完全に見せ物状態。ルークスはしばらく「ウホウホ」モードで跳ね回り、息を切らして椅子に倒れ込む。


「……はあ、はあ。これでしばらくは新商品がなくても十分だ! 当分は安泰! ルークス帝国の黄金時代の幕開けだああ!」


そう言って満面の笑みを浮かべるルークス。しかしその直後、ヴェゼルがぽつりと告げた。


「悪いんだけど……ルークスおじさん。実は、ローグ子爵様との海藻交易が決まったんだ」


「それと、ルータン村の砂や石も買い付けてきてほしいんだ」



ルークスが問う「何をするつもりなんだ?」


「ガラスを作ろうと思って……できるかわからないから、まずは実験から、だけどね」


その瞬間。


ルークスの顔が……ぐにゃぁぁぁと変形した。


顎は外れそうに落ち、目は飛び出し、髪まで逆立つ。


「………………は?」


変顔はそのまま石像のように固まり、しばし沈黙が流れる。


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