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第158話 ビック領女子軍団のあんまん大作戦01

朝日が領内の倉庫の窓から差し込むころ、ヴェゼルはひとり怪しい笑みを浮かべていた。


「ふふふ……今日から二日間で、遂にアレを作るのだ!!!元気百倍!アン……!…………じゃなく、名付けて――『あんまん大作戦』だ!」


悦に浸り、右手をグーにして力強く掲げるヴェゼル。


すでに倉庫には女子軍団が集結している。アビー、ヴァリー、アクティ、サクラ、オデッセイ、セリカ。


六人が並んでヴェゼルを見上げると、揃って「えっ!?」と声を上げた。


「ねえ、それって何? なんなの?」


「もしかしてまた戦場行くの!?」


「いや、食べ物だよ! 甘いお菓子! あんまんっていうんだ!きっと今まで食べたことのない味だよ!食べると、……………………勇気と優しさと希望が……湧いてくるか…も…………?」


ヴェゼルが胸を張ると、女子たちの目が一斉にきらりと輝く。


甘い食べ物と聞いた瞬間、表情が180度変わるのだから現金だ。


「甘い……!?」


「お菓子!? え、パンなの? まんじゅうって何? どっち!?」


「どんな形!? 何色!? 丸? 三角? …………勇気? 優しさ? 希望?」


質問攻めにあうヴェゼル。必死に手振りで説明するが、誰もピンと来ていない。



「と、とにかく! 見ればわかるから! 作ればわかるから!」


「おおーーっ!」


女子軍団のテンションは最高潮。倉庫の中で「わーっ!」と歓声が響き渡る。


まずは大豆の準備。倉庫の奥から昨年収穫した麻袋を、どっさり引っ張り出す。


「ふぅ、重い……でもみんなでやると楽しい!」


セリカは両腕に袋を抱え、ふらふらしながら運んでいる。


「よいしょっと! よいしょ!」


ヴァリーは力任せにずるずる引きずる。まるで子犬が大きすぎる骨を引っ張ってるみたいだ。


「ひゃっほー! まめだまめだ!」


アクティは袋の中に半分身を突っ込もうとして、豆に埋もれる勢いだ。


「ちょっと! それは遊ぶものじゃないから!…………パンチするぞ?」


アビーが慌てて引っ張り出す。が、アクティは満面の笑み。


水に漬ける作業では、サクラが水に手をいれて、「うわー! 水が冷たくて気持ちいい~!」とはしゃぐ。


勢い余って水しぶきが飛び、オデッセイの顔に直撃。


「ちょっと、サクラちゃん!」と叫びながら袖で顔を拭くオデッセイ。


その横でヴェゼルが「大豆はね、一晩水に漬けてふやかすんだ。そうすると……」と真面目に説明しているのだが――。


アクティとサクラは水に浸かる豆を見て大はしゃぎ。


「おい、聞いて! 今から説明するって言ってるのに!」


ヴェゼルの声は届かない。


「……こ、これから先が思いやられる……」


ヴェゼルは頭を抱えたが、その顔はどこか嬉しそうだった。





午後になると、ヴェゼルは女子軍団を森へと誘導した。


「午後は、本当は天然酵母用に葡萄を採りたかったんだけど、この季節はまだ無理。だから……野苺だ!」


「えっ、野苺!?」


「野苺狩りだーー!」


一瞬でテンションが爆発。まるで遠足に行く子供の集団のように、アビーもアクティもサクラもキャッキャと笑いながら、森の中を駆け回った。


もちろん、ヴァリーだけは真面目に、周囲をきょろきょろと警戒している。


だが、その横をアクティが「みてみてー! こんなにとれた!」と両手いっぱいに赤い実を抱えて走り抜けるから、警戒どころではない。


「アクティ様! そんなに走ると転びま――」


ズザァーーッ!


予想通り派手にすっころぶアクティ。


「わぁああああ! のいちごがぁぁぁ!」


地面にばら撒かれる赤い宝石。すかさずサクラが飛びつき、まるで宝探しのように拾い集める。


「あぁ!つぶれちゃったぁ!」


ヴェゼルはアクティの前に行き、徐に顔に手をやり「……僕の顔をお食べ……」と謎行動でブツブツ言っている。



「……はぁ。騒がしいわねぇ」


オデッセイはため息をつきながらも、野苺を自分の籠にこんもり詰め込んでいる。さすがだ。



結局、ドタバタしながらも大量の野苺を収穫できた。森を出る頃には、みんなの指先が赤く染まり、顔もどこか幸せそうにほころんでいた。


「よし、あとは洗って容器に漬け込むだけです! バイキン……マンが入らないようにして!」


ヴェゼルが号令をかける。


水桶にどっさり入れられた野苺は、洗うそばから女子たちがつまみ食い。


「きゃー、甘酸っぱ~い!」


「おいしい~! 止まらない!」


「だめだめ、漬け込む分がなくなるって!」ヴェゼルが必死に制止するが、もう誰も耳を貸さない。


どうにか容器に残った分を漬け込んで、天然酵母の準備は完了した。


「一週間くらいで泡が出てきて……ふっくらパンができる……はずなんだけどな」


ヴェゼルは心の中で小さく反省する。


「三年前にやっておけば、家族や領民にふわふわパンを食べさせられたのに……これじゃあ、……なんのために生まれて……」


だが、その陰の思いを知る者はいない。女子軍団は容器に頬をすり寄せて「わーい、楽しみ!」「これでまた美味しいものが増えるね!」と笑っている。



こうして、あんまん大作戦の一日目は、笑いと野苺にまみれて無事終了したのだった。



ヴェゼルが呟く。


「確か、いちごちゃんって、キャラがいたな………あ、いちごだいふくちゃんもいた……苺大福……求肥は米系由来か……」





今日はなんだか謎行動が多かったヴェゼル。『あん…まん』だから……見過ぎたんだろうか……興奮してたんだろうか……










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