閑話 無から生み出された者達 03
この世界の成り立ちです。飛ばしていただいても問題、、ないかと思います。
いわゆる能書きですね。。
『意思』は虚無の中に立ち、光と闇の精霊を従えて、長い時を観察していた。
闇の精霊は孤独の重みに耐え、光の精霊は秩序の萌芽を照らす。二つの存在は、『意思』の静かな観察のもと、無限の可能性の中で揺らいでいた。
そのとき、『意思』は思った。孤独と秩序の両極を持つ存在があれば、無から何かを創り出すことができるのではないか、と。
虚無に、秩序と混沌の両方を織り込むことによって、時間、空間、そして生を宿す世界を形作れるのではないか、と。
まず『意思』は、光と闇の精霊に問うた。
「我が分身たちよ、この無の中に、我が意志を映す場を作らぬか」
闇の精霊は渋々うなずき、光の精霊は輝きを増して答えた。二つの力が共鳴することで、虚無はわずかに波打ち、空間と時間の萌芽が生まれた。
『意思』は手を伸ばし、まず一つの世界を形作った。
その世界は、魔法の存在する世界であり、秩序と混沌がまだ均衡を失った状態で存在していた。
闇の精霊はその世界に潜み、光の精霊はその上空を照らした。二つの精霊は、世界の法則が完全ではないことを承知しつつも、『意思』の意志を実現するためにその存在を許したのである。
次に『意思』は、さらにいくつもの世界を創った。
それぞれの世界は異なる性質を持ち、異なる秩序と混沌の度合いを宿した。
ある世界では闇の精霊の力が強く、混沌と未知の存在が支配する世界となった。
ある世界では光の精霊が秩序を強め、法則と理が支配する世界が生まれた。『意思』はすべてを観察し、最終的な調和の可能性を試したのである。
そして『意思』は決意した。
これらの世界に、自らの分身として「人間」を配置し、秩序と混沌の間で揺れ動く存在として生かそう、と。人間は光と闇の精霊の間で、試練と選択を経験し、世界の可能性を広げる触媒となるはずであった。
この創造の過程で、光の精霊は世界の法則を安定させ、秩序の基礎を整える役割を担った。
『意思』が複数の世界を創造し、人間を配置し、秩序と混沌の均衡を観察していた頃、闇の精霊はその中のひとつの世界――魔法の世界――に深い興味を抱いた。
『意思』の目が届かぬかのように、闇の精霊は密かに行動を起こす。
光の精霊を伴い、この世界に降り立ったのである。
その行為は、『意思』の目には禁忌として映った。
長く静かに秩序と混沌を見守ってきた『意思』に無断で世界に干渉すること――それは、精霊たちに与えられた自由の境界を越えるものであった。『意思』は静かに、しかし確実に怒りを示した。
「禁忌を犯したる者よ、汝の力を削ぎ、形を変えん。されど、長く共に歩みしその魂に、我が憐れみを忘れじ」
『意思』は高らかに宣し、闇の精霊に裁きを下す。
闇の精霊はその力の大半を失い、かつての威光は霧のように消え、闇の妖精へと格を落とされた。
されど『意思』はその憐れみを形に変えんと、別の世界――遠き何処かの世界の春、夜の空に桜の花の儚くも麗しき景色に思いを馳せ、闇の妖精に名を授けた。
「汝はこれより、『桜』と呼ばれん」
かくして、かつて『意思』の隣に立ち、自由を謳歌した者は、制約された存在として魔法世界に留まりつつも、春の一瞬の美しさを宿す名を得たのである。
一方で、光の精霊は闇の妖精と別れ、自由を得た。
その胸に生まれたのは、秩序と生命を導く力を顕現させる意志であった。
光の精霊は火、水、土、風、聖の精霊を生み出し、元素の力を司らせた。また、錬金と収納の精霊も顕現させようと試みた。
錬金の精霊は完全ではなかったものの、錬金の妖精として顕現し、世界に存在を残した。
しかし、収納の精霊は完全に形を持つことができなかった。
意志の力で試みられたものの、顕現には至らず、その存在は妖精としても形を成さなかった。
ただし、収納の魔力そのものは世界に残り、魔法として広がったのである。
その魔力は、秩序の中で物を隠す力として、時に闇と親和し、闇の妖精に吸収されたのかもしれないと語り継がれる。
光の精霊は、こうして従える精霊たちと共に魔法世界の一角に拠点を築いた。
火・水・土・風・聖・錬金の力は、秩序の象徴として世界を護り、精霊たちの国――精霊王国――が建国された。
収納の魔力は目に見えぬ形で世界に広がり、秩序の中に潜む陰影として働いた。
『意思』は遠くから見守った。
闇の精霊に下した罰、光の精霊による秩序の顕現、そして部分的に顕現した錬金と目に見えぬ収納の魔力――すべては『意思』の計画の一環であり、世界の均衡を保つための試みであった。
世界を創ることだけでなく、各世界に未来の可能性を宿さねばならない。人間には試練を与え、選択をさせることが必要であり、そのためには精霊たちが適切に働く環境が必要であった。
光の精霊は希望と秩序を示し、闇は試練と混沌をもたらす。こうして『意思』は、光と闇を通して世界の成長と変化を促す構図を完成させたのである。
そして『意思』は決定した。
ある世界に特別な役割を与えることにした。そこは、魔法が存在する世界であり、人間が意思の分身として試練と成長を経験する世界。
ここで『意思』は、自らの存在を隠し、光と闇に世界の秩序を託すことにした。精霊たちはその役割を受け入れ、人間たちに秩序と混沌を体験させる準備を整えた。
こうして、虚無から生まれた『意思』は、闇と光を伴い、複数の世界を創造した。それぞれの世界は秩序と混沌の度合いが異なり、人間たちに試練と選択の舞台を提供する。また、『意思』はその全てを見守り、時には干渉し、時には精霊に任せることで、世界の進化を観察したのである。
これにより、虚無から始まった孤独の意志は、光と闇を媒介として複数の世界を形作り、未来に向けて動き始めた。世界はまだ未完成であり、秩序と混沌は均衡を欠いたままである。
しかし『意思』の観察と精霊の働きによって、世界は成長し、やがて人間や魔法、秩序と混沌の複雑な相互作用を宿す舞台へと発展していくのであった。
虚無にこぼれ落ちた孤独の意志は、闇を生み、光を呼び、そして複数の世界を創造する。『意思』の孤独は、創造の萌芽として、永遠に続く秩序と混沌の中に根を下ろしたのである。
ここから、後に物語の舞台が整えられ、神話の序章は完了したのであった。




