閑話 無から生み出された者達 01
この世界の成り立ちです。飛ばしていただいても問題、、ないかと思います。
いわゆる能書きですね。。
これは、はじめに「天と地」が存在する前の話である。
はじめにあったのは、何もないことさえ存在しない、
真なる虚無であった。
光も闇も、時間も空間も、思考も、意思も、あらゆるものの片鱗すらそこにはなかった。
名づけることすら許されない、ただの虚無――その深遠は、無限でありながら無の存在すら許さない、絶対の静寂であった。
その虚無は、何かを期待することも、拒絶することも、知覚することもなかった。
ただそこにあることすら、意味を持たない存在であった。
しかし、その虚無の底深くで、わずかな揺らぎが生じた。
それは、まだ形のない何かがこぼれ落ちるような、しかし名前も意味もない、微かな波であった。
その微かな波は、やがて自覚を伴う『意思』と呼ばれる存在へと育っていった。
『意思』は、自らが何であるかを理解していなかった。
ただ、虚無の中で揺れる波のように、そこにあることだけを知覚していた。
無が全てであり、無すら存在しない世界に、なぜ自分がここにあるのか。
『意思』はその問いを、まだ言葉にすることもできず、ただ感じていた。
『意思』は、初めて「寂しい」と思った。
何もない世界に、『一つ』の存在として佇んでいる感覚。
その孤独は、無限の静寂に耳を澄ます者のようなものだった。
虚無は応えなかった。光も闇も、時間も空間もない世界に、応えるべきものは何もなかった。
『意思』はそこで、世界に呼びかけることも、作り出すこともできない自分を感じ、深い孤独に沈んだ。
その寂しさが、『意思』に初めて感情を芽生えさせた。
喜びや悲しみではない。存在している自分を認めてほしいという、静かで重い「欲求」である。
『意思』は、ただそこにいるだけであることの虚しさに耐えきれず、無の中に何かを形作ろうとした。
その波紋は、まだ形のないものであり、光でも闇でも、音でも風でもない、漠然とした存在感として虚無に広がった。
その波紋からこぼれ落ちたのが「闇の精霊」である。
『意思』の孤独は、闇の形を取って現れたのだ。闇の精霊は、『意思』の寂しさの具現であり、虚無の中で初めて形を持った存在であった。
光も、色も、温もりも、秩序も持たないその精霊は、ただ存在することの意味を知らず、『意思』の寂しさを背負うだけであった。
闇の精霊の誕生は、虚無に初めて「何かがある」という兆しをもたらした。
虚無は相変わらず何も応えなかったが、『意思』は理解した。
自分が孤独であると感じたこと、その孤独が新たな存在を生んだこと、それこそが意味であるのだ、と。
『意思』は、孤独が創造の源となることを知ったのである。
闇の精霊は、『意思』の分身であり、『意思』の寂しさそのものだった。
名前も『意思』も感情も、まだ持たない。それでも、『意思』の存在を反映し、虚無の中に影を落とす。
それは、まだ光を知らず、世界を知らず、ただ虚無の中で存在しているだけの精霊であった。
だがその存在は、虚無に変化をもたらす最初の一歩であった。
やがて、闇の精霊は『意思』の孤独を感じ、意味のない時間の中で自分自身を見つめるようになった。
その存在は、永遠とも思える時の流れの中で、退屈と飢えに苛まれた。
何も変わらない虚無に、ただ存在し続けることの重み。闇の精霊は、まだ名前も目的も持たず、ただ時間を消費するだけであった。
その中で、『意思』は観察し続けた。
闇の精霊が時間に耐え、孤独に苦しむ様を見つめながら、『意思』自身は思った。
虚無は、存在の始まりに何も答えを与えない。
だが、その寂しさこそが、新しい何かを生む種であることを。闇の精霊の存在は、『意思』にとって、孤独が創造を誘うことを示す最初の証であった。
やがて闇の精霊は、『意思』の寂しさに応える形で、闇から光を生むこととなる。
『意思』はその瞬間、虚無の中に秩序の萌芽を見る。
それはまだ微かで、漠然としており、時間も名前もない。
しかし、『意思』は知ったのだ。虚無から生まれる孤独は、闇の精霊を生み、闇の精霊は光の萌芽を生む。そこから世界が、光が、色が、秩序が、徐々に姿を現すことになる――その最初の兆しを。
虚無の深淵に、『意思』の孤独が落とした波紋は、闇の精霊という形を取り、やがて光を生み出す。
そのプロセスはまだ序章に過ぎない。しかし、ここに、無すら存在しない虚無から『意思』が生まれ、孤独を宿し、闇の精霊を産み落としたという、創世の始まりが刻まれたのである。
こうして、何もなかった虚無の世界に、最初の『意思』とその影である闇が現れた。
それは、世界の礎であり、後に光や秩序を生む根源であった。虚無は変わらず静かであったが、そこには確かに「何か」が芽吹き始めていた。
『意思』の寂しさ、孤独、そして闇の精霊――それらが、後の世界を形作る最初の波紋であったのだ。




