閑話 カミアの話 06
ザンザスの手紙を読み終え、胸に温かいものが満ちる。だが、その安堵の隙間に、冷たい怒りが再び流れ込む。
あの「白い人型」――私をこの世界に叩き落とし、無数の時間と命を削らせ、世界の魔法を体系化せざるを得なくした存在。
何十年、何百年と魔法を研究し、弟子たちを導き、体系を整え、世界に秩序をもたらした。
だが、あの存在は、私の努力も、私の命も、私の愛する者たちを守るための血も、何もかも顧みなかった。
私は拳を握りしめ、荒れ果てた老いの手を見つめる。
「必ず……必ず、あの存在を消す」
その言葉は、祈りでも呪いでもない。
生涯に渡る憎悪そのものだ。
私の胸に浮かぶのは、あの「白い人型」がもたらした数々の悲劇。
――愛しいあの人。
もしもあの存在が約束を破り、私の未来を奪おうものなら、その瞬間、私は時空を超え、次元を裂き、その存在自体を世界から抹消する。
だが、ただの力ではない。
相手は神に等しい存在だろう。
単純な力比べでは勝てない。私には計略と術が必要だ。
私は長年に渡り、魔法の体系化の副産物として、異次元を操作する術を試みていた。収納魔法を進化させ、時間と空間を制御し、どの次元にも干渉できる手段を開発する。
魔法は限りなく無限である。
だが同時に、命の危険とも隣り合わせだ。
少しでも制御を誤れば、この世界、いやこの宇宙そのものを崩壊させかねない。
それを知っていながらも、私はあの「白い人型」を討つために、全てを賭ける覚悟を決めている。
私の心は、二つに分かれる。
ひとつは愛。あの人に再び会うこと。
そのための術を完成させること。
もうひとつは憎悪。あの「白い人型」に鉄槌を下すこと。
私の長き歳月の努力は、この二つのために費やされてきたのだ。
「白い人型よ……私を欺いた時の報いを、必ず受けるがいい」
私は机に向かい、研究を再開する。
収納魔法の理論をさらに進化させるための新たな式、次元間転移のための詠唱の改良、時間の干渉を制御する魔法陣の改良――。
これらすべては、愛しい者を守るため、そして憎き存在を討つために必要な術。
窓の外に目をやると、夕陽が地平線を染めていた。
長い年月を経て、私は老いた。
体力も精神力も限界に近い。
しかし、老いも死も恐れはしない。
残された命の全てを、この復讐と再会のために捧げる覚悟がある。
胸に浮かぶ光景は、何度も夢に見たものだった。
愛しいあの人の笑顔、かつて交わした約束、そしてあの「白い人型」に復讐する瞬間の明確な殺意。
それはまるで、未来から呼ばれた運命の断片のように、鮮明に心に焼き付いている。
「私の愛しいあの人よ……必ず、再び会いましょう」
呟きは風に乗り、窓の外の夕焼けに溶けていく。
その背後には、冷たい憎悪の炎が揺らめく。
あの「白い人型」がこの約束を破った瞬間、私は全てを超えて戦う。
次元の壁も、時の流れも、命の限界も、私の前には意味を持たない。
私は立ち上がる。
机の上に並べられた魔法陣、古文書、符号――。
すべては私の手で再構築され、あの存在に対抗するための力となる。
「白い人型よ……私の全てを賭けて、必ずこの手で裁きを下す」
その言葉に、老いた身体も心も震える。
怒りも悲しみも、全ては鋭い刃となって私の中で研がれた。
だが、同時に私は希望を捨てない。
あの人と再会する日が必ず来ることを信じ、あの「白い人型」との約束を果たす日を待つ。
そして、その日が来たとき、私は悠久の月日をかけて積み上げた知識と力で、あの存在に最終の一撃を下す。
老いた手で魔法陣を描きながら、私は心の中で静かに誓った。
「この世界の全てを賭けても……、あの存在を、必ず抹殺する」
そして、同時に、あの人の温かな笑顔を再び抱きしめる日を夢見た。
夕陽は沈み、世界は静寂に包まれる。
歳月に蝕まれ、老いた身体は重くなったが、精神は未だ研ぎ澄まされ、憎悪と妄執は衰えなかった。
同じ思考が何度もリピートする。「白い人型」そして「あの人」。
あの「白い人型」が自らの人生を縛り続けた契約と呪縛――その存在を消し去る思いは、死の間際でさえも、彼女の魂に燃え続けていた。
「あなた……必ず会う。必ず……」
彼女は自らの研究ノートを握りしめ、収納魔法の極致や転移魔法の原理を思い描く。
死しても意志は残る。未来に、あの白い人型に鉄槌をくだすために、そして愛しい人に会うために。
呼吸は弱まり、身体は冷たくなるが、目にはまだ炎が宿る。
私の心は、永遠の復讐と愛の炎で燃え続けていた。
――あの「白い人型」も、私との約束を守るだろうか。
私の愛しいあの人と、再び巡り会わせてくれるだろうか。
それは誰にも、そして何にも、まだ決してわからない。
この思いは妄執か、固執か、徐々に善悪の判断すらつかない。
長年醸成された感情。もう、何が現実で何が夢なのかさえ、分からない。
……私を止めるものなど、……止められるものなど存在しない。
この思いは……もう……狂気と言っても良いのかもしれない。もう…何が正しいのかさえ分からない。
全てを犠牲にして世界を守り、白い人型への復讐を果たす――その思いが最後の瞬間、彼女の魂を燃やし続けた。
教皇様の話は、
まだ早かったかなぁ。。。
と、思っている作者でございます。
まだ、先の話かなぁ。。。




