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りんご一個分の収納。マジでどう使えと!? 〜辺境騎士爵に転生したので、なんとか無難な人生を…歩みたいなぁ〜  作者: 大童好嬉


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第12話 そしていよいよ、ようやく、やっと、、鑑定の儀

城内の大広間には、辺境伯領とその周辺の大小さまざまな寄子たちが集まっていた。全部で16家ほどの貴族が集うという。


高い天井を支える梁には魔法陣が描かれ、壁には領地内の紋章や戦功を表す旗がずらりと掲げられている。


陽光は高窓から柔らかく差し込み、広間を淡い金色に染めていた。


寄子たちは騎士爵、男爵、子爵、伯爵などに応じて列を作り、従者たちとともに整列している。


剣や短剣を腰に帯びつつも、正装の衣装に身を包んでいる。室内には静かな緊張感が漂い、誰もが辺境伯の一挙手一投足を注視していた。


辺境伯は正面の高座に立ち、長いマントをゆったりと肩に羽織り、低く重厚な声で口を開く。


「皆の者、よくぞこの場に集ってくれた。今日の総会は、皆の領地の現状を確認し、今後の方針を共有するためのものである」


その言葉だけで、広間全体がピンと張り詰める。寄子たちは背筋を伸ばし、息を飲みながら耳を傾ける。しばらくして円卓の席につく。いよいよ総会のはじまりだ。


辺境伯はひとりひとりの寄子に耳を傾け、最近の領地の活動や戦力、財政の状態を簡潔に確認する。


中には新たに任命された若い寄子もおり、辺境伯の目の前で軽く頭を下げると、辺境伯は優しくも厳しい口調で「精進せよ」と声をかける。その一言で、若き貴族たちは身を正し、肩に力が入る。


総会では財務報告、兵力報告、治安や交易路の整備状況など、細かい議題が次々と展開される。


寄子たちは必要に応じて意見を述べるが、その声は決して大きくはなく、常に辺境伯の目線に注意を払いながら発言する。周囲の従者たちは各自の役割を果たしつつ、緊張感の中で動き回る。


「今回、森の西側に新たに巡察隊を置く。資源の確保と治安維持の両面で効果を期待する」


辺境伯が指示を出すと、各寄子たちはすぐさま了承し、静かに頷く。まるで全員が大きな船の舵を一斉に操作するかのような、緊密な統制の感覚が広間に広がっていた。



ヴェゼルはアビーと肩を寄せながら、会議の端の席に座っていた。まだ5歳ではあるが、総会を見学すること自体は希望者なら年齢を問わず許されているのだ。


広間の中央には辺境伯が座り、列席する寄子たちを静かに見渡している。報告は一人ずつ順番に行われ、ほとんどが口頭と手書きの資料を用いた進行だ。


中には、羊皮紙にインクでぎっしりと書き込まれている資料があり、棒グラフや円グラフのような現代的な視覚表現は皆無である。


(……うーん、これ、全部頭で処理しろってことか……)


ヴェゼルは遠くから羊皮紙をじっと見つめる。


現世ならパソコンやタブレットでサクッと図解して、どの領地がどれくらいの兵力を持ち、どの道が整備され、どの資源が豊富かを一目で把握できるのに、この方法だと一枚一枚めくりながら数を数え、メモを取らなければならない。


寄子たちの発言も、やや前時代的で冗長だ。長々と領地の自慢や過去の戦功を語り、必要な情報まで到達するのに時間がかかる。隣でアビーも眉をひそめ、うなずきながら耳を傾けている。


「ヴェゼル、どうしたの? 眉間にシワ寄ってるよ」


アビーの声に、ヴェゼルは小さく笑う。


「いや……ただ、もう少しわかりやすくできないものかと思ってね。今の資料なら、これ全部グラフ化して、どの領地がどれくらい兵を出せるか、資源はどれだけあるか、一目でわかるんけど……」


元デザイナーの血が疼く。


アビーは目を丸くして、耳を傾ける。


「……ヴェゼル、グラフ? よく分からないけど、それってすごそうね。でも、あの中身が分かりづらそうなのは、私でもわかるわよ」


「うん、そうなんだけど……ちょっとだけ、ヤキモキするんだよな」


その間にも、寄子たちは順番に報告を続ける。羊皮紙を広げ、細かい数字を読み上げ、辺境伯が時折質問を挟む。


ヴェゼルは指で数字を追い、頭の中で現世のように表を作りながら整理しようとするが、羊皮紙の情報は時折、重複や抜けがあって、計算し直す必要がありそうだ。


「……はぁ? あの領地の兵数、さっきと報告と違うんじゃないの?」


小さな呟きをアビーに聞かれてしまい、顔が少し赤くなる。


アビーは小さく笑う。


辺境伯は黙って全体を見渡し、各寄子の報告の内容を端的にまとめ、必要な場合だけ短く指示を出す。


その落ち着いた眼差しと、的確な判断力に、ヴェゼルは内心で感嘆しつつも、現世ならここで「データ可視化」と「効率化の提案」をやりたくてたまらない自分がいる。


会議は数時間にわたって続く。数字を数え、報告をメモし、周囲の緊張感と伯の威厳を肌で感じながら、ヴェゼルは5歳の体を持ちながらも精神は現世そのものの判断力で必死に頭を回転させる。


時折、隣のアビーが小さく頷き、うなずき合いながら報告を理解する。その静かな連帯感が、疲れた頭に少しの安心感を与える。


辺境伯や寄子たちの前時代的な進行方法もまた、この時代の文化であり、礼儀であり、血筋の重みなのだと理解している。


「……まあ、これも経験か」


肩をアビーに寄せながら、ヴェゼルは自分にそう言い聞かせた。小さな体に緊張が残るが、頭の中は現世の知識と異世界の現実の折り合いをつけながら、初めての本格的な政治空間をしっかりと観察していた。



総会が終わると、辺境伯は軽く頭を下げ、寄子たちは静かに退出する。全員の背中には、今日ここで示された緊張感と、辺境伯の威厳が深く刻まれていた。




その頃、会場は別棟の華やかな応接室では、辺境伯夫人の主宰によるお茶会が開かれていた。


壁には精巧なタペストリーが掛けられ、香木の香りがほのかに漂っている。部屋は大きな窓から柔らかな光が差し込み、柔らかな絨毯の上には小さな円卓が並び、銀製の茶器や陶器のカップが整然と配置されていた。


辺境伯夫人は控えめながらも品位のある微笑を浮かべ、到着した貴族たちを丁寧に席に案内する。


小さな円卓には銀製の茶器や陶器のカップが整然と置かれ、どの皿も完璧に磨かれていた。その一挙手一投足に、参加者たちは自然と視線を集め、微笑みや軽い礼を返す。


温かい微笑みを浮かべるその振る舞いは、まさに城内での社交を掌握する女主人そのものだ。


「皆さま、本日はお集まりいただきありがとうございます。どうぞごゆっくりお楽しみくださいませ」


辺境伯夫人の柔らかい声が空間を満たすと、部屋にいた貴族たちも互いに微笑みを交わし、控えめながらも社交の会話を始める。 


女性貴族たちは絹のドレスを優雅に整え、手元のカップに紅茶を注ぎながら、領地での出来事や家族の話題を和やかに交わす。


辺境伯夫人に礼を述べたり、簡単な報告を差し挟む。全体に漂う空気は穏やかで、総会の緊張とは対照的に柔らかく、社交の格式を保ちつつも和やかさを重視しているのがわかる。


この声に、参加者たちは微笑みを返し、互いに軽い会話を交わす。お茶会の雰囲気は総会とは対照的に柔らかく、社交の場としての格式を保ちつつも、和やかさを重視していた。



総会に参加しない男性貴族は座席に腰を下ろし、控えめな笑みを浮かべつつ、時折夫人に向けて簡単な報告や礼を行っていた。


その中で、オデッセイの姿は一際目立っていた。彼女はにこやかに笑い、茶を注ぎながら周囲の貴族に礼を返す。


しかし、その微笑の奥には、微細な計算と警戒が潜んでいる。各貴族の目線や会話の端々から、潜在的な足の引っ張り合いや利害の交錯を見抜き、静かに身を守るための立ち回りをしていたのだ。



誰かが何気なく発する言葉や笑顔の奥に潜む意図を瞬時に読み取り、内心では辟易しながらも、表情はまったく崩さない。


そのバランス感覚は、異世界の貴族社会で生き抜くために必要不可欠な技術だった。


「……ふぅ、やはりこういう場は神経を使うわね」


オデッセイは心の中でため息をつく。華やかな紅茶の香りと柔らかな会話に包まれながらも、見えない鎧を着ているかのような緊張感が体を巡る。


隣の貴族同士の笑顔の裏には、微妙な駆け引きや情報戦が隠れており、それを見抜きつつも、表向きは柔和な顔で応じなければならない。


一方、会場の中心では辺境伯夫人が優雅にお茶を注ぎ、参加者一人ひとりに視線を向ける。



総会での政治的緊張とは異なる、柔らかい空気の中で、オデッセイは巧みに自分の存在を管理し、必要以上に目立たぬよう立ち回っていた。


しかし、辺境伯夫人の視線はオデッセイに向かっていた。


微笑の中には確かな信頼が宿っており、辺境伯夫人はビック家、とりわけオデッセイを心から頼りにしていることが見て取れた。


オデッセイもそれを微かに感じ取り、心の中で一瞬だけ安堵する。もちろん表情は変えず、にこやかに紅茶を注ぎながら、周囲の貴族たちの動きや会話を観察し続ける。


辺境伯夫人は柔らかな微笑みを浮かべながら、オデッセイに軽く近づいた。周囲の参加者は紅茶の香りに包まれ、穏やかな会話に興じている。だが、二人の間には静かな緊張感が漂っていた。


「オデッセイ、今日は来ていただいてありがとう。ビック家には本当に頼りにさせていただいておりますわ」


辺境伯夫人の声は穏やかで、どこか温かさを含んでいる。けれどその目には、単なる挨拶ではない確かな信頼が宿っていた。


オデッセイは微笑みを返しながらも、目の奥で軽く息をつく。


「ありがとうございます、辺境伯夫人さま。しかし、こうして皆の前でお会いすると、やはり場の空気は油断できませんわね」


オデッセイの声には穏やかさがあるが、参加者たちの視線の端々を計算していることがわかる。


辺境伯夫人は軽くうなずき、優雅に手元のカップを置いた。「ええ、私も承知しているわよ。ただ、オデッセイがいると、私も安心して会を進められるのよ」


その言葉にオデッセイは内心で少しだけ肩の力を抜いた。辺境伯夫人に信頼されているという事実は、単純に嬉しいだけでなく、城内での立ち回りに大きな支えになるのだ。


「それは光栄ですわ、辺境伯夫人さま。…ですが、あくまで水面下の駆け引きは見逃せません。小さな間違いが、すぐに尾ひれをつけて噂になりますから」


オデッセイの言葉には慎重さがにじむが、口調は穏やかで柔らかい。辺境伯夫人はそれを理解しているかのように微笑む。


「さすがね、オデッセイ。まさに私の求める感覚です。これからも、どうかビック家の力を貸してくださいな」


辺境伯夫人は少し身を乗り出すようにして、目を細めた。声には強い信頼と期待が混ざっており、参加者の中でも自然と目を引く雰囲気を醸し出していた。


オデッセイは微かに頷き、静かに応える。「もちろんですわ。私たちも、辺境伯夫人さまの力になれるよう尽力いたします」




総会を中座してお茶会の様子を眺めていたヴェゼルとアビー。遠くから見ていた二人は、まだ直接会場に入ることは許されていなかったが、肩を寄せ、窓越しに応接室の華やかさを眺めていた。アビーは目を輝かせながら小さな声で言う。


「ヴェゼル、見て。オデッセイさん、ただ微笑んでいるだけじゃなくて、すごく計算していそうね」


ヴェゼルは頷きながら応える。「ああ。でも、辺境伯夫人が母上を信頼しているのもなんとなくわかるな。あの微笑みの中には、安心感がある」


二人の間で交わされる会話は控えめだが、窓越しでもその信頼関係の強さが伝わってくる。


オデッセイが微笑みつつも場を読み、辺境伯夫人がそれを信頼している様子は、ヴェゼルにとっても異世界での人間関係の重要性を実感させるものだった。


「…ヴェゼル、夕方の鑑定も、落ち着いていられたらいいわね」


ヴェゼルは小さく頷き、窓越しに応接室を観察しながら内心でつぶやく。


(……総会の重苦しさから、この華やかさ。表向きの優雅さの裏に、こんなにも駆け引きがあるのか……)


二人は静かに互いに頷き合う。華やかな社交の裏にある緊張感、未知の社会空間に対する緊張を少しだけ和らげ、二人の心に、貴族としての覚悟を静かに芽生えさせた。


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