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閑話 カミアの話 04

ある日のことだった。


弟子のアイシスが、珍しく戸惑った様子で「お話があります」と言ってきた。


彼女は普段は気丈で、凛とした態度を崩さない。その彼女が言葉を探すように視線を揺らしている。


私はただ事ではないと感じ、静かに頷いて「話しましょう」と促した。


導かれるように向かった場所には、ザンザスが待っていた。


彼は普段の軽口も剣呑な笑みもなく、真剣な眼差しをこちらに向けていた。その空気に、私はただ黙って腰を下ろした。


アイシスが深呼吸をして、言葉を吐き出した。


「……実は、ザンザスと私は、共に歩むと決めました」


その瞬間、時間が一拍遅れて動いたように感じた。


弟子が、自らの意思で生涯を共にする相手を選んだのだ。私は胸の奥に、奇妙な寂寥と、同時に安堵を覚えた。


ザンザスが一歩前に出て、言葉を続ける。


「師よ……俺には、ずっと胸に秘めてきたことがあります」


そして彼は語り始めた。


自らの過去。


小さな国の領主の子として生まれながら、隣国の侵略により国は滅び、父は目の前で討たれ、母と姉は陵辱され、絶望のうちに命を落としたこと。


自分は家臣の手でかろうじて逃れたが、孤児として世に放り出されたこと。


「孤児に残される道は……盗賊になるか、浮浪者として飢え死ぬか、あるいは冒険者になるか……それだけです。俺は一時期、荒れ狂い、何もかも呪いました。だが――ジョルノに出会った」


彼はジョルノの名を出すと、わずかに笑みを浮かべた。


「……あいつのおかげで、俺は人としての道を踏み外さずに済んだ。だが、心の奥底ではずっと思っていたのです。俺と同じような子供を、二度と生み出してはならない、と」


彼の声は低く震えていた。


「もし、この混沌の世を終わらせるために、俺が悪名を被ろうとも……血にまみれ、多くの屍を越えることになろうとも……俺はこの戦乱を断ち切りたい。未来の子供たちのために、必ずだ」


アイシスがそっと彼の隣に立つ。


「私はザンザスと共に生きます。その志を、支え続けます」


ジョルノもまた肩を揺らし、笑って言った。


「お前らしいな。ならば俺もだ。背中を任せてくれ」


三人の決意に、私は深く目を閉じ、心の奥で静かに震えた。


そして思わずカミアの口をついて出たのが――


「……天下布武か」


ザンザスが眉をひそめて問う。「それは……?」


私は答えた。「古き時代の故事で、『天下に武をき、乱を鎮める』という意味よ」


その言葉にザンザスは瞳を燃やし、力強く言い放った。


「……それだ。それを、俺の旗印とする」


その瞬間、私は彼らが確かに未来を背負う者であると確信した。


そして、ザンザス、ジョルノ、アイシスの三人は、新たな旅路へと歩み出していった。


――私はただ、その背中を見送りながら、深い胸の内で静かに祈った。


彼らの行く先に、未来があることを。


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