君の日陰に僕がなる
あの日、君が初めて僕の前に現れたとき、君はまるで光そのものだった。学校の廊下を歩く君の後ろで、太陽がまぶしく反射して、目がくらみそうだった。君の髪は金色に輝き、笑顔ひとつで周りの空気さえも変えてしまうような存在だった。
僕はいつも陰にいた。教室の隅で、目立たないように過ごしていた。君みたいに目立つことができるわけもなく、他人と話すのも億劫だった。それでも、君の明るさに惹かれて、気づけば君の後ろに立っていることが多くなった。君が笑ったとき、世界が少しだけ温かくなるような気がして、それを僕はひとりで感じていた。
ある日、君と目が合った。君が微笑みながら、「こんにちは」と言ってくれた瞬間、僕の心は跳ね上がった。でも、どうしてそんなことを言ってくれるのだろう。君が僕に話しかけてくれる理由なんて、きっと何もないのに。
「君、いつもひとりだよね。」君はそんなふうに言った。驚きとともに、僕はどう答えればよいのか分からなかった。僕がひとりなのは当たり前だと思っていたから。
「うん、まあ…」と僕は答えた。
君は少し考えてから、「だったら、今日から一緒に帰らない?」と提案してくれた。その言葉に、僕は戸惑った。君と一緒に帰るなんて、夢みたいな話だった。でも、何かを逃してしまうことが怖くて、僕はうなずいた。
それから、僕たちは毎日一緒に帰るようになった。君は明るく、僕は静かだったけれど、少しずつ君のことを理解していった。君がどんなことを考えているのか、どんな悩みがあるのか、僕はその全てを知りたかった。でも、君はいつも僕の質問を避けるように笑い飛ばすことが多かった。きっと、僕には君の深い部分を知る資格がないと思っていたからだろう。
ある日の放課後、君と二人で歩いていると、君が突然立ち止まった。「ねえ、君ってさ、どうしてそんなに静かなんだろう?」君の目が僕をじっと見つめていた。その目には、僕の答えを求める期待があった。
僕は言葉を選ぶように、少し沈黙してから答えた。「僕は、君のように輝けないから。君みたいに、周りに光を与えることができないから。」
君は静かにうなずいた。その後、しばらく沈黙が続いた。やがて、君がぽつりと呟いた。「君が僕の隣にいることで、僕は安心できるよ。」その言葉が、僕の胸に深く響いた。
その瞬間、僕は初めて気づいた。君は光であり、僕はその光を支える影になっているのだと。君の隣で生きることができること、それが僕にとっての幸せだと思えた。
そして、僕は君の日陰になろうと思った。君がどんなに輝いても、僕はその影で君を支え、守り続ける。それが僕にできる、君への唯一の愛し方だと思ったから。