天狗
いつの間にか周りを囲まれてる気がする。
姿は見えないが、いくら鈍感な見波でも分かる。
無数の視線を感じる。
「舐めないで貰いたい!」
突然、声が降ってきた。
そこには黒い羽根、赤い顔、長い鼻の生き物が空中で
仁王立ちしていた。
辺りにも50匹ほどの同じ姿の生き物が!
アキラと見波を取り囲んでいた。
「!」見波は声も出ない。固まった人形のように立ち尽くす。
「あのチビを弁慶に勝てるくらい鍛えあげたのは我々ぞ。見くびるでない!」
仁王立ちのその生き物が言う。
「振動が爆弾に伝わったらアウトなんだぞ!
出来るのか?」アキラが心配してる。
「あ〜クドい!全部、琵琶湖に沈めれば良いのだな?」
そう言うと一斉に赤い顔と黒い羽根の生き物は、千本通りのスピーカーの鉄柱を次々切り落としスピーカーを抱えて東山の向こうへ飛んで行く。
下で驚いた警察が発砲しょうと銃を構えるとそのリーダー格の生き物が大きな団扇を一振した。
たちまちつむじ風に足元を掬われ警官達は仰向けに倒れる。
「人間ごときが小賢しいわ!」その生き物が大笑いする。
部下らしい1匹が報告に来る。
「久々楽しかったぞ!人間!」黒い羽根をひるがえし
姿が見えなくなった。
やっと見波が口をきいた。
「ねっ、アレ何?」
「そりゃあ〜天狗だよ。」アキラがうそぶく。
「架空の生き物なんじゃないの?」
「失礼な!あいつらの方が先だよ。
ただ人間が増えると共に明かりが増えると共に消えていったんだ。」アキラが遠い目をする。
「じゃあ、なんで…」見波が言い澱む。
「交換条件を提案したんだ。しばらくの間、貴船は
天狗見かける事になると思う。」ニヤッと笑う。
遠くで爆発音が鳴り響く。
花火大会のような音だ。それが、15分くらい続いた。
「全部、琵琶湖の中で爆発したみたいだな。良かった。」アキラがやっとホッとした顔をした。
そして、ふと大学の方向を眺めた。
「行くか…もう、警察が入ってるかもな…」
まだ講堂は人が出たり入ったりしていた。
中に入るとステージでランティスのボーカルが泡を吹きながら倒れていた。
警察が囲んでいる。
白鷺と教祖の周りも警察が囲んでいる。
任意同行を求められているが、応じてないようだ。
逮捕状はまだ出ていないのだろう。
「あっ、終わったの?成功したみたいだね、その様子だと。」アキラを見た白鷺が席を立った。
なぜかアキラが緊張してる。白鷺の後ろを凝視する。
ふと白鷺の傍らの教祖を見ると心電図が平らになっている。
「あっ!」見波がつい声を上げる。
「さっきね、息を引き取ったんだ。でもね〜全然気配が消えないんだよね。不思議と。」
教祖の頬を愛おしそうになでる。
「先輩はずっと鬱でね。クリエイターの性かな?
より評価されるものを期待されるものを作らないといけない、そのプレッシャーで精神をヤラれてたらしい。
舞台で死にたい、人の記憶に残りたいと相談受けてたんだ。
これで良かったのかな?」横たわるランティスのボーカルを見た。
アキラがずっと白鷺の後ろを見てるのに気付いたのか?
「いるのかい?」と白鷺が聞く。
「ああ、舞台の奴はとっくに召されたが、お前の後ろの奴は未練で離れられないみたいだな。
…あまり良くない。」
言葉を濁した。
「若いな。それこそ本望なんだよ。」
そう言うと崩れるように倒れた。
警察官が倒れた白鷺を抱き起こしたが、既に事切れていた。口の中にもうカプセルを含んでいたのだ。
アキラが天を仰ぐ。
「教祖が白鷺の後ろにいたの?」見波が恐る恐る聞く。
「ああ〜身体から魂を引きずり出そうともがいてたよ。愛って恐いな。」アキラがちょっと引いてる。
「でも白鷺さんには、嬉しい事じゃない?僕もそのくらい愛されたい…」見波がちょっとウットリしてる。
「きしょ…」アキラが呟いた。




