冥婚
翌日のダイニングでアキラと見波はテーブルを挟んで
向き合って食事をする。
見波の顔面にはアキラに叩かれた頬に手形がバッチリと…
ベッドでうなされて叫んでいた見波をアキラが引っ張っ
叩いて起こしたのだ。
自分の分のベーコンエッグを運びながら有間が申し訳無さそうに見波の顔を見る。
「ゴメンよ。自分が全くそういうの分からないから。
ココは有名な幽霊屋敷でね。
誰が住んでもすぐ手放すとイワクツキでね、安かったんだ。ハハッ」
「3人の血だらけの女は、誰なんですか?」見波が叩かれた頬をさすりなが聞く。
「大正時代、今が平成だから100年近く前にこの屋敷で
連続殺人があったんだよ。
その被害者じゃないかな?
そういうのは、アキラの方が詳しく分かるんじゃない?」有間がアキラに振る。
「あいつらは、自分達が殺されたのまだ分かってないんだ。
多分一瞬で殺されたんだろ。
だから、恋人がなぜ屋敷にいないのか?探してるんだよ。」
自分で焼いたパンをかじりながらアキラが面倒臭そうに言う。
「なんで俺なの?アキラも有間さんもいるのに?」
見波がしょんぼりしながらもガツガツとベーコンエッグを
食べる。
「霊は人間よりずっと弱い希薄な存在なんだ。
だから気付いてやれる人間の方が珍しいんだよ。
実際、事件後も遺族達はココで暮らして亡くなってる。その後だ。昭和の後半、人出に渡ってから気づく人間がいたんだろな〜アンタみたいに。」
2枚目のパンで見波を指さす。
「アキラくんとこには、来ないの?」
「僕は嫌われてるんだ。『お前ら死んでるぞ!恋人は結婚してジジイになって、とっくに死んでるぞ!』とか
言うから。」
「話せるからこそ、嫌われるんだね。」有間が面白そうに笑う。
「有間さんは?」見波がアキラに聞く。
「この人はね〜怒りを持ってる霊には反応するんだが、
どうも色恋はね…」
「?」有間が不思議そうに顔をしている。
確かにあの霊達は、愛する人を探してた。
こんな美人なのに…霊の愛は届かないらしい。
「あいつらは認識されて、初めてあっちからも見えるんだ。
つまり、この家には、俺と見波しか見えてない。」
「え〜って事は、また今夜も来るの?」
アキラが無情に首を縦に振る。
「いやだよ!俺は生きてる女にモテたいんだよ〜
死んだ女はいやだ!」見波が泣きそうな顔をする。
「確か事件は、こっちの洋館であったらしいから。
で2階が潰されたらしいし。
別棟の日本家屋でアキラと同じ部屋なら大丈夫じゃない?」有間がニコニコしながら提案する。
「絶対いやだ!」
アキラがテーブルを叩いて拒否する。
「でも、もし、幽霊さんに見波君が捕まったら…?」
「…魂と身体が分離されて、身体は朽ち果てる。
…つまり仲間になるんだ、あっちの。」アキラがため息をつく。
「いやだよ!まだ、死にたくない!まだ、◯◯もしてないんだ!
童貞を死んでる女に取られたくない!」
見波が大きなダイニングテーブルを回ってアキラの足に取り付く。
「アンタ、本当にプライドないのかよ!
男だろ?」足を振って見波を振りほどこうとする。
「ブライドで女にモテるか?
生きてる女とデートしてイチャイチャして結ばれたいんだよ〜俺は!」
見波は、不運な男だが18歳の恋に恋する健全男子なのだ。
「うちから死人が出るのは大家として困るな〜」
有間さんも助け舟を出してくれる。
アキラが天を仰いで腕組みして悩んでいる。
チラッと下の見波の顔を見る。
教会の祭壇でイエスに祈るみたいにアキラを見つめてる見波。
アキラが深くため息をついた。
「分かったよ!でも、カーテンで仕切るから!
絶対こっちに入るなよ!分かったか!」
「うんうん、分かった!」
胸ぐらをアキラに掴まれながら見波が頷いた。