弱き者
完全に打ちひしがれて見波は帰って来た。
信仰の根本をみくびっていたのだ。
「ダマサれて信じてるんじゃない。」
皆、自分で太刀打ちできない現実の壁の前で
生きる事に絶望して、それでも死ぬ事も選べず
何かに身を委ねて命を保つのだ。
『来世、生まれ変わり』に希望を掛けて、彼らは
この現実を生きながらえているのだ。
彼らから、それを奪う事は、即「死」なのだ。
信徒デイジーとローズは、ユニットで今度広瀬マリアの妹分として布教活動するのだとチラシを貰ってきた。
「見波くん、大丈夫?」有間が心配してる。
「今度は歌ったり踊れる奴等だからミニライブやるらしくて、チケット買ってたよ、見波」
アキラが面白そうにからかう。
「へーっ、何か楽しそうだね。でも見波君は、スゴい
落ち込んでるけど?」
「……」見波は返事すらできない。
「ところでアキラは入会したの?」有間が心配そうに聞く。
「え〜っ、見波がブッ倒れたから、また今度にしてもらった〜
代わりに数人の守護霊に僕の目と耳になってもらうよ。」
『広間で信徒数人から握手を求められて、絶対断ると思ったら、快く応じてて奇妙だと思ったんだ…』
ソファに突っ伏したまま、見波は妙に合点した。
「さすが宗教、全然霊がいないんだよ!
入った瞬間はビビった〜」アキラがドサッと1人椅子に座り込んでため息を付く。
「どういう意味?」有間が聞く。
「どこでもさ、人が居る所には何かしら霊がいるもんなんだよ。
だけどさ、あそこの霊は皆、天に召されてるんだよね〜おかげて綺麗過ぎて動かせる霊が全然いないんだ!」
「つまり、誰にも恨まれてない集団なの?」
「そうなんだろなあ〜」頭の後ろで手を組んで目を閉じる。
「これは、意外に手強いかもなあ〜」
「そう言えば、見波の元カノの事件、報道はどうなってるの?」アキラが聞く。
「どうも自殺らしいんだ、女の子は。彼氏を刺して殺したからって遺書も見つかってるらしくて。
薬も自分で調達してるし。
だから、竹に刺した奴らは死体損壊の罪しか問えないらしい。」有間が解説する。
「まあ、後ろに教団絡んでるのは分かってるんだろなあ〜でも、手が出せないか?」
「そうだね〜その広瀬マリアって子も癌でステージ4で
若いからもう3ヶ月くらいしか生きれないとか。
テレビで言ってたよ。」
「えっ、そうなんですか?」見波がビックリして起き上がる。
「取材受けてたよ。もう延命治療は全部断ったって。
痛み緩和のモルヒネだけだって。
動ける間に色んな人と話して伝えたい事伝えるって。」
『貴方の笑顔が、私のお守り』
それは本心だったんだあ〜
『失恋なんて恋の入り口、これから素敵な恋をして下さいって』
未来が無いからこそ、未来がある見波へのメッセージだったんだあ〜
滝のように涙が頬を伝う。
「俺、俺、間違ってるのかな?宗教が必要な人達が
こんなに世の中に居るって知らなかった。
そんな人から、信仰を取り上げて良いのかな?」




