39稼 ラスボス
《side???》
9階層に入ってからかなり様子がおかしいことは感じていた。
全くモンスターが来ないし、フィールドによるダメージを与えられるだけ。
「それなのにどこかおかしい。凍り付いたりして死んじゃうのは分かるけど、あまりにも不自然な動き方をしてるモンスターがいる」
ただ凍って死にかけてるなら絶対にしないような動き。そんな動きを一部で見せているモンスターがいる。
突然狂ったように暴れ、他のモンスターに手を出し始める。
しかも1体に狙いを定めるのではなく、多くのモンスターへちょっかいをかけるような形で。
「ダメージを均等に与えようとしてる?というか、単純に先に行かせないように時間稼ぎをしてる?そんな感じに見えるけど……………」
そうやって暴れてるモンスターは明らかに何かしらの向こうの意図を含んだうえで行動しているように見える。
確実にただ混乱して暴れているわけではない。
「なんでだろう?どこにこんな行動をさせるような仕組みあがあるの?」
雪が降る中、相手側が何をやっているのかは見えない。ただ、どこを見たって何か相手を混乱させるような罠があるようにも見えない。
何も分からないまま、時間だけが過ぎていく。
だけどその流れる時間は私のモンスターを更に強化してくれて、
「あっ10階層まで行けた」
たまたまではあるけど、1体のモンスターが10階層へと到達する。
満身創痍な状態のモンスターだけど、それでも情報を持ってきてくれるのはありがたい。
どんな階層なのか知ることは大切だから。
なんて思ってたら、
「え?ダンジョンコア?もうそこにダンジョンコアあるの?」
予想以上の情報を持ってきてくれた。
モンスターの目線の先には大きな扉と、その先にあるダンジョンコアをガラス張りの壁から見ることができる。
つまりもうここさえ突破してしまえば、私は勝利することができるということになる。
「勝った。これは間違いなく勝った!向こうはどうせゴブリンの寄せ集めだしいくら強化しても私の中層以降は超えられないだろうし、それに私のダンジョンの方がもっとたくさん階層があるから下まで行くなんて到底無理なはず。これは間違いなく私の勝ちだよ!!」
私は勝利を確信した。
ここまでこれたんだから、私の方が先にダンジョンコアを破壊することができる。
「いや~。まさかここまでDPをため込んでそうなこのダンジョンが10階層で終わりなんて思わなかった。そんなものなんだね………」
10階層しかないようなダンジョンにはさすがに負ける気はない。私のダンジョンの半分程度しかないってことなんだから。
ただ一応確認だけはして安心しようと思い、相手側の進行状況、つまり、私がどれだけ攻め込まれてるかを確認して、
「……………え?」
困惑の声を漏らすことになる。
でも、それも仕方のない事。なにせ、
「なんで、もう向こうが最下層までこれてるの」
いくら強化されているとはいえ、所詮相手が出してきたのはゴブリン。強化されているとはいえ元のスペックが低いから、私が送り出してるようなモンスターとは違って強化後も私のモンスターほど強くないことは間違いない。
私のモンスターがここまでまだ苦戦してたりすることを考えれば私のダンジョンではもっと向こうが苦戦してるはずで、なぜここまで来れているのかが理解できない。
そう思ってみていると、
「あ、あれ?もうこんな強化倍率に?」
違和感を感じる。
私のダンジョンの下層にいるモンスターが、ゴブリンのパンチ1発で簡単に吹き飛ばされてしまったのだから。
それこそ、攻撃力は私の送り出してるモンスターとそこまで変わらないようにも見えてしまう。
つまりそれは強化の倍率が高いか、もしくは元となるステータスが私のモンスターと同じかという話になるわけだけど、
「強化倍率が違うなんて公平じゃないからあり得ない。というかそんなことは書いてなかった。となるとゴブリンに見えるだけで、私の見ているのは別のモンスターってこと?」
何が何なのかサッパリ分からない。
でも分かるのは相手の出してきたゴブリンは間違いなく普通のゴブリンではなく、そしてまた私は相手の掌の上で踊らされていたということ。
見た目で私は完全に騙されていて、相手の思うつぼとなってしまった。
「悔しい……………って、それどころじゃない。ほぼ向こうとこっちの最下層突入タイミングは同じだし、先にこっちが相手のボスを倒さないと負ける!」
ここまで苦戦は強いられてきていたけど、決して負けるということは考えてこなかった。
だからこその、焦り。急に負けるという可能性が出てきてしまったからこその、とてつもない焦り。
「マズい!私がDP払うことになるのはマズい!そんなに私のダンジョンに余裕ないよ!」
ただでさえ私のダンジョンはかつかつ。
維持費のために他のダンジョンのダンジョンコアをもらいに行かなきゃいけないくらいだから、かなり無理のある経営状況になってる。
そんな私のダンジョンに、今回かけてるDPを支払えるだけの余裕なんてない。
「……………だ、大丈夫。実力は拮抗してるとしても、向こうの方が結局リスポーンしてからボスに到達するまでの時間は長い。私の方が断然有利なはず!」
距離で言えんば圧倒的に私のダンジョンの入り口から最奥までの方が長い。
相手のダンジョンには移動距離で勝ってる。
だから、それだけこっちの方がより早くダメージを多く与えることができるはず。
問題があるとすれば、
「相手のボスってリッチか……………ゴーレムナイトが盾役に配置されてるし結構突破するのは厳しいかも」
私のダンジョンのボスと相手のダンジョンのボスはまるっきり同じ存在というわけではない。
私がアイスドラゴンをボスとして1体配置しているのに対して、向こうはリッチというボスがいるうえで壁役のゴーレムナイトも多数。
ゴーレムナイト程度であればすぐに倒せるだろうけど、おそらくその程度の時間だとリッチの魔法でやられてしまうと思う。
そしてリッチの使う魔法は単体攻撃ではなく範囲攻撃だろうから、それだけで一定の数は削られると思う。
「あと、リッチって確か自分でも配下召喚できたよね?ゴーレムナイトだけでも面倒なのに、そこからさらに他の盾役が出てきたら相当突破はきつい……………」
そんな私の予想通り。
相手の壁とリッチの範囲攻撃に私のモンスターは大苦戦することになる。
数々の罠などを潜り抜けてきた私のモンスターだけど純粋な高火力の一撃に耐えられるだけの防御力はまだ足りてないみたいで、次々とリッチに倒されていく。
その間に私のダンジョンの方でもアイスドラゴンが頑張っているんだけど、少しずつ傷を増やされていき。
「嘘でしょ?このまま負けるの?私が?」
体も声も震える。
相手は私のアイスドラゴンに攻撃を加えられているのに、こちらはまだリッチに触れることすらできていない。その差は歴然。
もう私には、この状況が覆せるとは思えない。
そう思って、絶望した時だった。
「ん?この影……………え?なんで?」
私の見ていたモニターに影が映り込む。
それは予想外の存在だけど、この状況において救世主と言ってもいいくらいの最適な存在で、
「あっ!そっか。防御力が上がってきて、ワイヤーに耐えられるまでになったってことか」
それは今までずっと苦しんできていて、ほとんど活躍できていなかった存在。
飛行型のモンスター。
1階層に合ったワイヤートラップに引っ掛かり続けて全く前に進むことができずにいたモンスターだけど、ここまでの時間経過でかなり強化されたみたいで、ついに逆にワイヤーを体で引きちぎることができるくらいのパワーと頑丈さを手に入れたみたい。
このモンスターの力があれば他と違って地上での妨げを受けることはないから、
「いける!いけるいけるいける!これなら絶対にいける!!」
高速で相手の最下層である10階層まで飛翔してきた私のモンスターは、魔法をかいくぐってリッチの頭へと突撃をした。
「……………か、勝った」