20稼 不死
さて、私が仕掛けた罠の影響でオークに殺されてしまった冒険者なんだけど、なんでわざわざ私が殺そうとしたのかという話をしようか。
理由は単純で、私の敵だったからというものが1番。
あの冒険者はトップの冒険者というほどではないけどそこそこ強い方で、SNSなどへの発信も積極的にやっててある程度影響力もあった。
そんなその冒険者なんだけど、立場がどちらかと言えば国よりの人で私のダンジョンを批判する投稿も何度か見受けられたんだよね。
だから邪魔だった。それだけ。
いや、それだけの理由で人を殺すなと思おうかもしれないけど、この人はあくまでも私にとっては1人目の犠牲者に過ぎない。
まだまだ国よりの冒険者はたくさんいるし、そういう人たちもできれば同じように消したいとは思ってる。
ただ、そうは言ってもどの程度の強さがあれば消せるのかまでは分からなかったから、まずはこの強いけどトップではない人がどの程度のレベルなのかを見たかった。
とりあえず私が正面か戦いに行って勝てるような相手ではないことが分かっただけでも十分。
そして、
「……………よくもやってくれたな豚野郎ぉぉ!!!」
「ッ!?ブモモォォォ!!!????」
一度殺した程度じゃ死なないような化け物だったってことも。
胸に深い傷を入れられ首まで切り落とされたはずの冒険者。そんな彼がいつの間にか五体満足の状態で立ち上がっていて、オークの体を背中から胸にかけて拳で貫いていた。
死なないのも化け物だしオークの体を拳で貫通させられるのも化け物だよ。下手にしゃべったりしなくてよかった~。バレてたら確実に疑われて殺されてたでしょ。
「ブモォォォ!!!!」
「手負いの豚にやれるほど弱くはねぇよ。くたばりやがれ!『インパクト』!」
オークが大けがを負った今の状態でもどうにかしようと腕を振るうけど、肉弾戦では格闘家である冒険者の方が断然上。
スキルかアーツを使われてしまえば勝てる道理もなく、オークは逆に腕を吹き飛ばされてしまう。
まあただオークも諦めることはない。
殴られ腕が吹き飛ばされた衝撃で体も後ろに行ったから、ある程度距離ができた。こうなればまた斧の間合いになるから、残った腕で斧を振り上げ、
「ハッ!そんなへなちょこが当たるかよ!」
片手で持っているからまず安定感がないし、加速も大したものにはならない。
避けるのもこの化け物みたいな冒険者なら簡単だと思う。もちろん当たったら大けがするだろうからある程度真剣にはやると思うけど。
まあだから、この少し油断が生まれるタイミングが、
「っ!?か、体が!?」
私はここで初めて直接動く。
今までの様子を見る限り全く気付かれてないみたいだったから、そのまま背後に回り込んで両手でタッチ。もちろん私は、状態異常を付与する装備をしている状態で。
こういう人なら状態異常にある程度の体制は付けてあるだろうけど、それでも3種類の状態異常を体に受けて耐えられるとは思えない。
見た限り身動きが取れないみたいだし、とりあえず麻痺は確実にしてる。後は毒も入ってるかってこととランダムな状態異常は何が選ばれてるかってことなんだけど、
「うおおおぉぉぉぉぉ!!!!動け俺の体ぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
どれだけ状態異常が付与されていても、あきらめないといった風に迫る斧を避けようとする冒険者。
でも、私にとっては運のいいことにランダムな状態異常はピッタリのものが発動したみたいで、
「せ、背中が!?」
麻痺をする中でもどうにか必死に全身を動かして前に進もうとした冒険者。
でも、動かそうとした全身の内一部分だけが上手く動かない事に気が付く。
それが、私の触った背中。足や手と違って移動のためにも攻撃にも防御にも使わないところだけど、出せるトップスピードを出すためには腰回りを動かしたり肩甲骨とか動かしたりするために背中の動きも必要。
それが使えない状態で麻痺までしているということであれば当然逃げようとしても大した速度なんて出すこともできず、
「うおおおぉぉぉぉ!!!!やられてたまるかょ!『インパクト』!!」
流石にこういった判断は的確なようで、逃げることができないと踏んだ冒険者は迎撃を選択。冒険者の方はまだ両手があるから、どちらか片手を犠牲にしてでも勝つといった様子で2本の腕を伸ばしてオークを倒そうとしている。
流石にオークの腕を飛ばすことができるくらいの威力のある攻撃で間違いなく相応の被害を出すことは可能だと思う。
ただ、
「くそっ!ここまで、か……………」
「ブモォォォ……………」
オークは間違いなく倒せた。
腕を片方失って胸まで貫かれてるんだから時間の経過で息絶えただろうけど、それはそれとしてさらに急激な死期の接近を図ることができた。持っていた斧は根元で折れていて武器も使えなくなり、腹部もかなり深くえぐられている。
それでも犠牲がなしなんていうことは当然ない。
冒険者の右胸はバッサリと切れていて、右手なんかはもう完全に使えない状況。しかもオークは倒れ込むような形で斧の攻撃の後に冒険者へ体当たりをしたからその衝撃で強く背面と頭部も打ってる。
お互い出血が激しく、引き分け以外はあり得ないように見えた。
だからここで私は、
「……………ダンジョン、コア?」
まず冒険者の荷物を回収する。
もしここから回復薬か何かを取り出して前回復、なんていうことになっても面倒だし、確実に仕留めたいからね。
その時に私の持っているダンジョンコアを見られちゃったけどこれはしょうがない。
念入りにもう一回タッチして状態異常を重ねがけしたうえで、私はこのダンジョンを脱出するために上を目指す。
冒険者にとどめを刺さなくていいのかと疑問に思うかもしれないけど、殺したらまた全回復して復活するかもしれないそれは避けたかった。
オークと同じように殺したと思って油断して背中から胸まで拳で貫かれるとか嫌すぎるし。
「……………」
移動中は私はひたすら無言。
もしかしたらこの回収した荷物の中に盗聴器とか仕込まれてるかもしれないし、下手にしゃべって身バレするのはマズい。
悲しい事ではあるけど、いくつか回復薬とかをもらったらこの荷物もどこか適当に近くで捨てるつもり。
で、そんな無言のままダンジョンの外へと向かう私だけど、ただ逃げるだけでは当然ない。
いつあの化け物冒険者が復活して追ってくるかもわからないし、罠をたくさん仕掛けている。オークとの戦いの1番最初に仕掛けた落とし穴みたいなものは勿論、他にも色々な種類の罠を設置済み。
もしかしたらモンスターがそれに引っ掛かっちゃうかもしれないけどそれはそれで仕方ないってことで。
ここでの私の目的は、罠で命を刈り取ることではなくただ時間稼ぎをすること。
そうすれば毒が蓄積しててどんどん命も削られていくだろうし、
ガラガラガラッ!
私がダンジョンコアを持って外に出れば、ダンジョンは崩壊する。
冒険者はその崩壊したダンジョンの中で生き埋めになるわけで、さすがにそうなれば帰還は不可能。
一応事故ではあるけどもっと上の方のランクの冒険者でもダンジョンが完全に崩壊するまでに抜けないと生きて帰ってくることはないってことは証明されてて世間にも知れ渡ってるから、これで完璧。
あとは適当に奪ってきた荷物とかを近くに隠すようにしておいておけば、それで終了。
「ふぅ。これで1人減るし人手が若干足りなくなるよね……………」