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9稼 一般から見たダンジョン2

《sideとある一般冒険者》


「綺麗~」

「えっ!?すご~い!ダンジョンってこんなことまでできるんだ……………」

「写真撮ろ!写真!」


俺と一緒にカプセルに入って転移か何かをされた若い冒険者たちがその景色に見入っている。

目の前に広がるのは、満天の星空とオーロラ。この国ではあまり見る機会のないオーロラが、ダンジョンの中であれば簡単に観ることができるというわけだ。


ただ、確かに景色は良いがこのダンジョンに新しい力を求めてくる冒険者たちは、


「おいおい。こんなの見たって強くならないんだけど?」

「つまんねぇ。もっと稼げるのを追加してくれよ」


こんなものには興味を示さない。一応説明書きがあったから理解はしていたが、実際に見てみると落胆が大きいわけだな。

この機能は、冒険者全般に向けたものではないだろう。単純に、ここに来た時のおまけとして一部の者達が楽しんだり、一般人が来た際に楽しむものなのではないかと思われる。


「はぁ~。帰ろ帰ろ」

「金はかからなったからいいけどよぉ……………焦って損した気分だぜ」

「全力で1番取ろうとしてたのにこれかよ……………」


ほんの少しの希望を胸にここまで来た者達は肩を落としてまたカプセルに入り、帰っていく。

それが半分。帰らずに写真を撮ったりして盛り上がっているのが半分。これで説明書きがなかったらもっと帰る比率が高かったのではないかと思う。


「あっ!今流れ星落ちたぁ!」

「おぉぉぉ!!!綺麗~~!!!!」


残ってる人々は基本的に景色に魅入られている。きれいな景色だから写真をSNSにアップしてもいいかもしれないし、純粋に自分たちで観ている分にも楽しいかもしれない。

人にはよるかもしれないがまた来たいと思えるスポットかもしれない。

ただ、それはそれとして、


「やっぱりあったか……………」


俺は確かに帰らなった。確かにここに何かあるんじゃないかと期待して結局何もないと分かり帰った冒険者たちとは違う。

ただ、だからといって景色に魅入られていたわけではない。きれいだと思ったしたまに見に来てもいいかもしれないと思ったりもしたが、ずっと見て居たいほど俺はそこまでこの景色に興味はない。

それよりも俺が期待してこの場所にとどまり続けたのは目の前にある、


「やっぱり宝箱あるよな~。だと思った」


宝箱だ。

このダンジョンが、冒険者も組合も含めて色々なところの欲求を理解しているだろうこのダンジョンが、ただきれいな景色を提供するだけで終わるとは思えなかったんだ。

そしてやはりその予想通り、少し歩いた先には宝箱が並んでいる。

しっかりと有料ではあるものの、普段の場所のものとはカラーリングが違い中に特別なものが入っているのではないかと期待させてくれる。

しかも個々の宝箱に気づいたのは俺が1番初めなわけで、


「宝箱は1番最初にあけるときが1番いい物が出やすい!帰らなくてよかったな」


俺の判断は間違っていなかった。

俺はポケットから財布を取り出して宝箱を開いていく。


まだ誰も気づいていない宝箱。しかもここはあまり積極的に冒険者が来るようなところではない。ということでここの情報はしばらく俺が独占できることは間違いなく、


「おぉぉぉい!こっちに宝箱あったぞぉぉぉ!!!!!」


「えっ!?宝箱!?」

「そんなとこにあんの!?」

「うわぁ。気づかなかった」


確かに独占できるのは間違いない。

ただ、独占がバレた時どうなるかは予想できている。最近は冒険者が力を持ち始めたことで様々な場所で暴力事件が起こるようになっているし、冒険者に恨まれるなんていうことになるのは絶対に避けなければならない。

確かに独占はできるかもしれないが、ここまで出てきた宝箱のラインナップや値段を見る限りメリットとデメリットが釣り合わないような状態だ。


それならここの情報は公開してしまった方が良い。

1番初めに宝箱は空けられたわけだし、先行者利益はこの程度で満足しておいた方が良いだろう。


「……………さて、飯でも食べて早速どっかのダンジョンにでも新装備を試しに行くか」


そのまま、カプセルを使って元の場所へと戻っていく。

どこから情報を持ってきたのかすでに大量の冒険者たちが我先にと向かってきてすれ違うが、俺はそれを涼しい顔で頑張れと思いながら見るだけ。

いやぁ~なかなかいい気分だ。


なんて思った次の瞬間、


「ん?俺の武器がっ!?」


突然、俺の手にあったはずの存在が消えてなくなっていた。

急いで周囲を見渡すと、視界の端で見覚えのあるものを抱えて走っている輩が映る。盗まれたわけだ。

急いでそれを追いかけようとしたところで、


「ゴバァ!?」


そいつが吹き飛ぶ。顔面から血をまき散らしながら。

周囲に血が飛び散るが、周囲のやつらは少し驚いて体を震わせるだけで悲鳴を上げたりはしない。それどころか、


「うぉぉぉ!久しぶりに観た!」

「やれやれぇ!もっと痛めつけろ!!」

「このダンジョンって、こういうところが最高だよな~。マジで分かってる」


歓声が上がる始末。

それが何故かと言えば、このダンジョンではこれが最近こそ少なくなったが昔はよく見られた光景だったからだ。

珍しかったり強かったりする装備を宝箱でゲットするのはよくあることだが、やはりそれを狙って盗もうとするやつもいる。


そんな輩に対して、このダンジョンは対策を立てていたのだ。

それが、


「ゴーレムナイトかっけ!!」

「このダンジョンのゴーレムナイトのせいで、他のダンジョンでゴーレムナイト見かけると攻撃したくなくなるんだよなぁ」

「あの動き、マジで師匠って感じだな」


土でできた全身鎧。片手に持たれたこれもまた土でできているだろう槍。そしてその胸にかけられたプレートと、そこに描かれた「警備兵」という文字。ゴーレムナイトというモンスターだ。

普段は固まっていて像のようになっているのだが、何か犯罪行為や違反行為をした存在がいると動き出しそれらを片づけて取り押さえていく絶対的な存在だ。

悪人を倒すところから正義の味方みたいな立ち位置になっていて、ファンも多い。


そのままゴーレムナイトはその盗人が持っていた俺の装備を回収すると、こちらへと近づいてきて、


「……………」


「あ、ありがとうゴーレムナイト。やっぱりかっこいいな……………」


喋れないのだし当たり前なのだが、無言で俺にそれを渡してくれる。

俺は礼を言いつつそれを受け取る。周囲では拍手が巻き起こっていた。


ただ、こうして盗まれたものは帰ってきたが、これで終わりということもなく。次はいつの間にか動いていたもう1体のゴーレムナイトが盗人に触れる。

殴られ盗んだものを回収されたが、それだけではこのダンジョンでの処分は終わらず、


「キャアアァァァ!!!見ちゃだめよ!汚いわ!」

「目が汚れるぅぅぅぅ!!!」


一部の女性の冒険者たちが目をふさぎだす。一部は隠すフリをして指の間からバッチリ見ていたりするが、そのゴーレムナイトは悲鳴など気にせず作業を行なっていく。

盗人の持ち物をすべてはぎ取るという作業を。

もちろん、下着まで全部。

そしてそのまま穴のような床に押し込まれ、消えていったかと思えばダンジョンの入り口のあたりから悲鳴が聞こえてくる。


このダンジョンで犯罪行為や違反行為を行なうと、かなり軽い行為でない限り皆等しく同じ処分を下される。

それがこの、全ての持ち物を奪われたうえ裸に剥かれた状態でダンジョンの外へと放り出されるというものだ。

性別も年齢も関係なくこの処分が下され、その後の安全は一切保証されない。

基本的に公開処刑のようなものであり恨まれる対象であるから、なにもされなかった者はいないだろう。


「……………金はかかるけど装備も手に入って飯もうまくてシャワーもトイレもあって景色もきれいで、しかも警備体制もしっかりしてる。これは間違いなく最高のダンジョンだよなぁ」

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