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遭遇

その日アリシアは専属侍女のタラッサと護衛騎士と共に母行きつけの服飾店と宝石店を巡り、帰りにカフェスピカでフルーツケーキを買おうとしていた。


無事に母のお使いも終わらせ、ご褒美とばかりに店内のショーケースを覗き込む。


ルーカスと一緒にこのお店を訪れたのはまだそれほど前ではないのに、アリシアにはひどく懐かしく感じられた。


ニコラオスの葬儀の日の翌日以降ルーカスと会うことはできていない。

まめに手紙は送ってきてくれるものの、忙しくて会うだけの時間が取れないとのことだった。


ルーカスと出会ってから、学園の長期休暇以外でこれだけ長く会えなかったことはあっただろうか。

物理的に遠く離れているわけではなく、会おうと思えば会える距離にいるからこそ、会えない事実に寂しさを感じていた。


「お嬢さま」


ショーケースを見ながら少しぼぉっとしていたらしい。


タラッサに声をかけられて、アリシアははっと意識を取り戻す。

心配そうにこちらを見やるタラッサに、アリシアは小さな微笑みを浮かべた。


「今日も季節のフルーツケーキにするわ」

注文を伝えてアリシアは一足先に馬車へと戻る。


そこそこ混雑している店内を抜け護衛騎士が開けたドアを出たところで、アリシアはここにいるはずのない姿を視界の端に捕らえて足を止めた。


距離がそれなりにあることを考えると、気づいたことに驚くくらいだ。


「ルーカス?」


道を挟んだ向こう、ドレスを扱うお店の前で、馬車から降りる女性に手を差し出しているのは間違いなくルーカスだった。


彼は今日王都の店に来るなどと言っていただろうか?

そもそも忙しくて家から出ることすらままならないと言っていなかっただろうか。


ルーカスが送ってくれた手紙は内容を覚えてしまうほど何度も読み返していた。

アリシアと会う時間すら取れないと言っていた彼はいったい誰をエスコートしているのか。


馬車の影になって見えなかった女性の顔が見えた時、アリシアははっと息を飲んだ。


女性はニコラオスの婚約者、フォティアだった。


きっと妊娠によってこれからお腹が大きくなるであろうフォティア様のドレスを作りにきたのよ。

それならわざわざお店まで来なくても公爵家に呼べばいいはず。

もしかするとフォティア様の気分転換もかねて出かけてきたのかも。


一瞬にしてアリシアの頭の中にいろいろな考えが浮かんでは消えた。


どれも正しいかもしれないし、正しくないかもしれない。

事情がわからないアリシアには推測することしかできないからだ。


(私と会う時間は取れないのに?)


嫌な考えが胸に浮かんでアリシアは慌てて打ち消した。

道向こうからアリシアが見ていることに気づかないまま、ルーカスはフォティアをエスコートして店内に入って行く。


(なぜ私はこんなところでルーカスがフォティア様をエスコートしている姿を見ているのかしら?)


心のざわつきが治らない。

ルーカスが、アリシアと会う時間は無いのにフォティアと出かけているからだろうか。

それとも出かけることを教えてくれなかったからだろうか。


いや。

そうではないことはアリシアにもわかっていた。

もちろん、忙しい中で婚約者のアリシアではなくフォティアへ時間を割いたことは気になる。


でもそれ以上に。

ルーカスとアリシアが婚約する前、ルーカスの初恋がフォティアであることを、アリシアだけが知っていたからだ。

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