父親
その日アリシアは純白のドレスに身を包み、緊張した面持ちで控室に待機していた。
ルーカスから贈られたドレスは王都でも人気のオートクチュールの品で、本来なら1年は待たなければ手に入らないものを、どういった手を使ったのか僅か半年で仕上げてもらったものだった。
真っ白な純白のドレスはシンプルに見えてしかし細部に至るまで繊細な刺繍やレースに彩られている。
初めて見た時にはその美麗さにアリシアはうっとりとしたため息をつくのを抑えられなかった。
Aラインのドレスは腕もデコルテもレースに覆われ、長いトレーンにロングベールと、ルーカスはアリシアの肌をいっさい見せない徹底ぶりだった。
そしてイヤリングとネックレスはアリシアの母から譲り受けた品だ。
母の家系で娘に代々受け継がれているアクセサリーのセットは結婚の際に渡される。
もしいつかアリシアに娘が産まれたら、今度はアリシアから娘へと受け継がれていくのだろう。
そしてティアラはかつてルーカスの母が結婚した時に身につけたものだった。
アリシアはルーカスの想い、そして自身の母とイリオン国の王女だったルーカスの母の思い出を身に纏い、今日結婚という儀式に臨むのだ。
「アリシア、準備はいいかい?」
控室にソティルの声が響く。
アリシアはうつむいていた顔を上げた。
「お父様」
「ああ…綺麗だね。今日お嫁に行ってしまうのかと思うと…少し寂しさを感じるよ」
半分冗談めかして言いながら、その実けっこう真剣に言うソティルの言葉にアリシアは微笑んだ。
「お父様。今までありがとうございました…」
「いや、その言葉はダメだ。お嫁に出すとはいえ、私は今後もアリシアの父親に変わりないし、さよならの言葉は聞きたくない」
頑なに言われてアリシアはまた笑った。
「さよならの言葉ではないわ。けじめの言葉よ。私、お父様の子どもで良かった。あまりできは良くなかったと思うけど」
「できが良い良くないなんて関係ない。お前は私たちにとって可愛い、大切な娘だ」
そこで一度言葉を切って、ソティルはアリシアの目をしっかりと見つめて言った。
「幸せになりなさい、アリシア」
たった一言に込められた多くの思い。
大切な宝物を抱きしめるかのように、その一言をアリシアは胸に刻んだのだった。
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