吉報
その吉報は、年が明けて始まった社交界にあっという間に広まった。
『ディカイオ公爵家のルーカス公とカリス伯爵家のアリシア嬢が春にご結婚されるようだ』
少し前に2人の間に後継の男子が誕生していたこともあり、人々は喜びに沸いた。
何よりも、戦争の影を落としたままのここ数年で王家や4大公爵家にまつわる慶事がずっと無かったこともあり、貴族だけでなく街の人々もどことなく浮き立っている。
また、ルーカスがニキアス皇太子殿下の覚えめでたい側近というのもこの慶事が人々の口に上る理由になっていた。
今までルーカスの持つ色に対して好ましく思わなった貴族たちも、世間の評判に呑まれるかのようにルーカスに対して好意的に変わっていく。
その変わりようにルーカス自身は苦笑するしかなかったが。
4大公爵家の結婚ともなれば規模も大きく招待される者も多い。
準備期間は比較的短期間だったが王都で一番大きい教会で式を上げることになった。
「私は公爵領の教会で式をあげるつもりだったのですが」
アリシアとの思い出の多い領地での式の方がルーカスとしては嬉しかった。
しかしその希望に対して待ったをかけた者がいる。
ニキアス皇太子殿下その人だ。
「それでは私が参加できないだろう」
まさかの理由にルーカスの眉間に皺が寄った。
「というのは半分冗談で、久しぶりの大きな祝い事だ。できる限り国民も一緒に楽しめる方がいいだろう」
ということは半分は本気なのか?と心の中で思わないでもなかったが、ニキアスが国民のことを常に思っているのもたしかなので、ルーカスは思わず出そうになった不満を呑み込んだ。
王族や公爵家の慶事は時に国民のお祭りと化す。
そして国民と喜びを共にすることで王家は求心力を高めたりするものだ。
アリシアとの結婚式を利用されるようでいささか気に入らないところはあるものの、それも仕方ないというのはルーカスもわかっていた。
そして本当に親しい人だけを招いた披露の場はまた別に設ければいいという結論に達する。
そんな事情も含みながら、ルーカスとアリシアは婚姻の儀を迎えることになったのだった。
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