幕間-噂-
「先生は以前王都にいらしたんですよね?」
勉強の合間の休憩時間に振られた話題に、フォティアは胸が疼くのを感じた。
王都からだいぶ南東に下りた地域、陸路での隣国との貿易が盛んな領地にフォティアは暮らしている。
産後半年を待たずに始めた仕事は、豪商の令嬢のガヴァネスだった。
産まれは伯爵家で学園も卒業し、公爵家の婚約者にまでなったフォティアは礼儀作法や令嬢に必要とされる科目に関して詳しい。
新興の商家でこれからは貴族相手の商いも考えている家のガヴァネスとしてこれ以上の人材はないだろう。
そのためか、フォティアに対する給与も良かった。
フォティアとしては自身の事情をいろいろと詮索されない仕事先というのはありがたい。
もしかするとその辺りはルーカスがすでに調整済みなのかもしれなかったが。
「そうね、王都にいたこともあるわ」
以前のことはあまり話題にしたくはなかったが、詳しい事情を知らない令嬢は無邪気に聞いてくる。
まだ一度も王都に行ったことのない彼女にとっては憧れの地なのかもしれないと思うと、その話題を無下に断ることもできなかった。
「お友だちが王都の隣の領地にいるのだけど、最近もっぱら話題になっていることがあるんです!」
「話題?」
「なんでも、ロゴス国の4大公爵家のうちの一つ、ディカイオ公爵家に男の子が誕生したって」
ディカイオ公爵家。
男の子。
その言葉を聞いた途端、フォティアの脳裏にテリオスの顔が浮かんだ。
「…そう」
フォティアの小さな頷きは聞こえなかったのか、令嬢はさらに話を続ける。
「ルーカス公とアリシア伯爵令嬢との間の子という話ですけど、公爵家でもご結婚前にお子さまが産まれることってあるんですね」
一般的に、高位貴族であればあるほど結婚後に子を持つことの方が多い。
もちろん先に産まれることが無いわけではないが、結婚後の方が揉めることが少ないからだった。
「ルーカス公とアリシア伯爵令嬢!?」
てっきり噂されている男の子はテリオスだと思ったフォティアは驚く。
「ええ。先月お産まれになったとか。お披露目はまだ先のようですけど、喜ばしいことだからすでに噂になっているようですわ」
テリオスが産まれたのはもう5ヶ月近く前になる。
先月だと産まれ月が合わない。
(アリシア様も身籠っていたということ?)
フォティアがアリシアに最後に会ったのは彼女が公爵家へ来たあの日。
タイミングとしては、きっと妊娠がわかってすぐの辺り。
(もしかしてあの時ルーカス様にそのことを話しに来たのかも…)
もし事件前にアリシアの妊娠がわかっていたら。
(私はどうしたかしら?)
今となっては考えても無駄なことだけど。
その事実を知って、今少なからずショックを受けている。
テリオスはどうしているのか。
『テリオスはこちらできちんと育てることを約束する。養育に関しては私が責任を持とう』
今のフォティアにはあの時のルーカスの言葉を信じることしかできなかった。
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