受容
アリシアはルーカスが落ち着くのを待っていた。
彼の中でどんな気持ちが吹き荒れているのかはわからなかったけれど、それはきっと悪いものではないと思えたから。
ひとしきりアリシアを抱きしめた後ルーカスはその腕を解いた。
よく見ると目尻がほんのり赤い気がする。
「今まであまり実感が持てなかったけれど、本当にアリシアのお腹に赤子がいるんだな」
「男の人はみんなそんな感じみたいよ。産まれて初めて実感する人が多いとか」
実際にお腹の中で子どもを育んでいるアリシアは否が応でも実感せざる得ないが、いつもと変わらず過ごすことのできる男の人はそうではないのだろう。
それは母にも言われたことだった。
「母親は命がけでお腹で我が子を育て、命がけで産むの」
真剣な声にルーカスがアリシアを見つめる。
大事なことを伝えようとしていると、わかったのだろう。
「きっとフォティア様も同じだったと思うわ」
「そして子どもは親を選べない。産まれ落ちる環境もね。でも産まれた子には何の罪もないのよ」
(ルーカス、あなたがそうだったように)
心の中で呟いて、アリシアは言葉を続けた。
「フォティア様がテリオス様を置いて公爵家を出られたと聞いたわ」
アリシアはルーカスの目をしっかりと見た。
自分の覚悟を伝えなければならないから。
「私はあなたと私の子と一緒に、テリオス様も育てたいと思うの」
ルーカスが目を見開くのをアリシアは見ていた。
「あなたがどうするつもりなのか聞いてから伝えようかとも思っていたのだけど…」
そこで初めてアリシアはルーカスから視線を外した。
「でもあなたの言葉を聞いてからでは、どんなことを言っても私の本心だと信じてもらえないかもしれないと思ったの。自分のために無理をしているのではないか、我慢しているのではないかって思うでしょう?」
その言葉を、ルーカスは否定できなかった。
アリシアの承諾を得ずにテリオスのことを決めたことに負い目を感じていないと言えば嘘になるから。
「だから、あえて私から先に言います。産まれてくる子とテリオス様、子どもたちを二人で一緒に育てましょう」
アリシアの言葉に、ルーカスは上を向くと片手で顔を覆った。
こみ上げる気持ちをぐっと飲み込む。
「アリシア、ありがとう。いつだって私は君に敵わない」
手を外してアリシアを見つめて、半分泣き笑いのような顔でルーカスは言った。
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