胎動
アリシアの両親との話を終えて部屋を訪ねるとアリシアはちょうどお茶をしようとしているとことだった。
本人曰く、妊娠してからやたらとお腹が空くらしい。
2人分の栄養が必要と思えばさもありなん。
誘われるままその隣に座ると、アリシアが手元を見せてくれた。
「少し前に完成したのだけど、今度はこれとお揃いの靴下を編もうかと思ってるの」
アリシアが手にしていたのは小さなミトンだった。
産まれてくる子のために編んだものだろう。
「小さいな…」
想像以上に小さいそのサイズにルーカスは驚きを隠せない。
「産まれる時はみんなこれくらいの大きさみたいよ。ルーカスはテリオス様を見てるからそんなに驚くとは思わなかったわ」
「テリオスと初めて会ったのは生後1ヶ月の頃だったし、その時もアフガンに包まれていたから手を見ることはなかったな」
テリオスの生後1ヶ月まで、フォティアは侍女以外と会おうとはしなかった。
そのためルーカスとテリオスが初めて会ったのもその頃になる。
そして新生児は1ヶ月経っただけでも産まれたてよりはだいぶ大きくなるだろう。
「そうなのね」
小さなミトンを大事に手に持つアリシアは、いつも以上に優しげな顔をしている。
「アリシア…」
「…あ!」
ルーカスの呼びかける声を遮るように、アリシアが声をあげた。
「ルーカス、動いたわ」
「動いた?」
不意にアリシアの手がルーカスの手を掴みお腹へと導く。
突然のことに驚いたものの、されるがままになっていたルーカスはアリシアのお腹に手を当てて2度驚くことになった。
たしかに何かに手を押された。
「今のは、足かしらね」
当たり前のようにアリシアが言うのが耳を通り過ぎる。
「足…」
「そうなの。けっこう足や肘が当たるから、やんちゃな子なのかしら?」
もしかすると男の子かもしれないわね、と笑うアリシアに、ルーカスは何と言葉にしたらいいかわからない気持ちが込み上げるのを感じた。
「アリシア、ありがとう」
何に対しての感謝だったのか。
ルーカス自身もはっきりと言えない感情が言葉になってこぼれ落ちる。
そして宝物を抱きしめるように、ルーカスはその腕にアリシアを包みこんだ。
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