表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/154

追憶

アリシアがルーカスと初めて会ったのは5歳の時だった。


カリス伯爵領は王都から馬車で3日ほど離れた場所にある。

王都に一番近い穀倉地帯であり、王都の食糧の多くはカリス伯爵領から賄われていると言っても過言ではなかった。


カリス伯爵は温厚な人物であり、細やかに領地を管理し大きな野心を持つことなく堅実に領地運営をしていた。

そのおかげもあり領地は栄えて人々の暮らしは他の領と比べても豊かだ。


そんなカリス伯爵領の隣にディカイオ公爵の領地があった。

常は領地を管理する家令が置かれている領内にはディカイオ家の別荘がある。


その別荘に隣国のイリオン国から輿入れしてきた王女が住むことになった。

王女にどんな事情があったのかを幼いアリシアが知ることはなかったが、アリシアが5歳になったある日、一つ上のルーカスと出会うことになる。


アリシアには3歳上に兄が、5歳下に弟がいたこともあり、特殊な事情で友人を作ることが難しいルーカスの遊び友だちに選ばれたのだろう。

カリス伯爵が中央政治への野心を持っていなかったことも大きかったのかもしれない。


大人たちの思惑を知らぬまま、アリシアたち兄弟とルーカスはあっという間に仲良くなった。


上と下に男兄弟がいたせいか幼いアリシアはそこそこに活発な子どもで、ルーカスと弟と共に転げ回るかのように遊び、兄がその3人を見守る形で多くの時間を過ごした。


大らかな両親に育てられたからかそれとも元々の性格なのか、アリシアはルーカスの見た目に対してネガティブなことは何も思わなかった。

むしろあまり見かけることのない綺麗な黒髪と濡れたように見える濃紺の瞳が不思議で仕方なく、何度もしげしげと見つめてはルーカスに戸惑われた。


後にある程度大きなってから、周りがルーカスの持つ色味にマイナスな気持ちを抱くと知り心底驚いたくらいだ。


だから、アリシアの思い出にはいつもルーカスがいた。

兄が進学で王都に行ってからも、領地にいる母の元で過ごしていたアリシアはルーカスと共にいたし、それは15歳になってルーカスが王都の学園に通うまで続いた。


そしてルーカスが王都に向かうその年、アリシアはルーカスと婚約したのだった。


貴族の婚約は政略的な意味合いが大きい。

結婚は家と家を繋ぐものと考えるからだ。


ただ、カリス家は他家との繋がりを特別求めていなかったこともあり、何よりもルーカスとアリシアの希望が通り婚約は認められた。

好きな相手と結ばれるのは、貴族の娘にとってこれ以上ない僥倖だった。


本来公爵家と伯爵家となると身分差がはばかるものであるが、ルーカスが公爵家といえども次男であること、母親が公爵夫人ではないこと、カリス伯爵領が裕福であったこと、なんと言っても戦争で適齢期の子どもが少なかったことなど、多くの理由があって整えられた婚約だった。


ルーカスが王都の学園に入学して一年後、アリシアもまた同じ学校に通い始める。

領地でも学園でも、一年の差があるとはいえいつだってアリシアのそばにはルーカスがいた。


お互いが在学中は長期休暇には一緒に領地に戻り、一年先にルーカスが卒業して騎士団へ入団してからはアリシアだけが休暇に領地へ戻った。


そしてアリシアの卒業を待って、二人の結婚の日取りが決まる。

ちょうどその頃ルーカスの兄ニコラオスも結婚が決まり、公爵家は慶事が続くことになるはずだった。


誰もが幸せになる、未来があったはずだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ