決心
ルーカスが王都に戻ったその日、アリシアはロッキングチェアに揺られながら小さなミトンを編んでいた。
赤子は時に自分の手で肌を引っ掻いてしまうという。
それを防止するためにはめるミトンを一目一目編んでいく。
そしてふと、フォティアの産んだ子に思いを馳せた。
フォティアの子はまだ生後1ヶ月にも満たない。
もし生後1ヶ月で母親と離れ、それきり会うことがなければその子に母の記憶はないだろう。
そんな状況下で公爵家に残されたらどうなるか?
物心ついた頃には自身の出自の違和感に気づくだろう。
実の両親ではない養父母、長男でありながら公爵家の継承権が無く、同じ歳の兄弟がいる。
周りの人間がその子にどう接するようになるかもルーカスやアリシアにかかっている。
当主や当主夫人が大切に扱えばそれにならい、粗雑に扱えばまたそれに準じた態度になるのは想像に難くない。
ルーカスがニコラオスの子でもあるその子を粗雑に扱うとは思えなかったが、いずれにしろその子が自身の立場を思い悩むことになるのは容易に想像がついた。
アリシアの脳裏にルーカスの笑顔が浮かぶ。
その子を慈しむのは過去のルーカスを慈しむようなものではないだろうか。
なぜか不意に、そんな考えが思いついた。
根拠なんて無い。
ただ、ルーカスと同じように複雑な出自の子を愛おしむことで、ルーカスは過去の自分も愛せるのではないか、そんな考えが頭から離れなかったのだ。
ここで選んだ選択を、自分はいずれ悔やむだろうか。
もしかすると育てたその子に恨まれることもあるかもしれない。
それでも。
何もせずにいられない自分をアリシアはわかっていた。
今正しいと思うことをするしかない。
自信が無くても、足掻きながらでも、泥臭く生きることしかアリシアにはできないのだから。
もしフォティアが子どもを残していくのなら、その子をちゃんと育てよう。
そう、決心した。
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