温室
翌日、ルーカスは昼過ぎにカントリーハウスを発つと言った。
今回ルーカスが捻出できた時間は一週間。
領地と王都の間は3日ほどかかることを思うと、それほど長い時間を一緒に過ごすことはできなかった。
ルーカスに誘われて、アリシアはカントリーハウスの中でも一番気に入っている温室で出発前のひと時を過ごしていた。
この温室には幼い頃の二人の思い出がたくさんある。
落ち込んだアリシアが温室で隠れていたところをルーカスが探しにきたこと。
気に入った花を切ってしまったらそれが母の大事な花で一緒に怒られたこと。
ベンチに座っておすすめの本をお互い交換して読んだこと。
上げれば切りがない。
そんな思い出の場所で、アリシアは自身の体調に配慮して入れられたハーブティーを楽しんでいた。
目の前のルーカスは差し込む日差しに照らされて、輪郭が淡く光っているかのように見える。
昨日の今日で、アリシアはまだ自分の気持ちを決めかねていた。
ルーカスもまた、急かすようなことは言わない。
「今日の午後こちらを発つが、フォティア嬢の件が終わり次第すぐに迎えに来るつもりだ」
アリシアの妊娠期間はもうだいぶ後期に入っており、体調を考えるとあまり遅いタイミングでの移動は難しい。
ルーカスとしてはアリシアの出産時には自身も近くで見守りたいという思いもあり、最終的にはゆっくりとした行程を組むことで王都まで戻ることになった。
「お仕事は大丈夫なの?」
「アリシアよりも優先させる仕事などない」
あまりにもはっきりキッパリと言われてアリシアは言葉を失う。
それでいいのだろうかと思わないこともないが、自分を一番に考えてくれるルーカスの気持ちが嬉しくもあった。
「わかったわ。じゃあ、準備して待ってるね」
「必要な物はこちらでも揃えておきたいのだが、希望などあるだろうか」
「ありがとう。でもまだ結婚前だから出産するのはカリス家のタウンハウスでよ」
前のめりに聞かれてアリシアは一応釘を刺す。
このままでは公爵家へ連れ去られかねない、そんな危機感があった。
「…わかってはいるんだが」
せっかく再会したのにまたしばらく会えない、王都に戻ってもまだ一緒に暮らせない、ルーカスとしてはそれだけでもつらいらしい。
(今まで7ヶ月近く会わずにいてもなんとかなったのに。いえ、会えなかった反動かしら?)
「すぐに迎えに来てくれるんでしょう?」
『もちろんだ』
そう答えが返ってくると思って言ったアリシアの言葉に、ルーカスは突然立ち上がった。
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