誤解
イレーネのことを一通り話したところで、ルーカスはアリシアに伝えなければならない大切なことを切り出した。
「実はアリシアに相談したいことがある」
言い難いことなのか微妙にルーカスの口調の歯切れが悪い。
「何?」
「フォティア嬢のことなんだが…」
フォティアの名前が出たところで、アリシアの体がピクリと動いた。
そしてルーカスは気づく。
自分の中ではとうに片づいたことだったからすっかり失念していたが、フォティアと自分との間に噂が流れていたことを。
そしてアリシアが以前手紙でそのことを伝えてきたことを。
思えばルーカスはその噂をまだはっきりと否定していなかった。
あの後もアリシアとは何度も手紙のやりとりをしていてその話は終わったものだと思っていたが、アリシアの反応を見る限り彼女の中では終わった話ではなかったのだろう。
「最初にはっきりと言っておくが、私はフォティア嬢に対して特別な気持ちは持っていない」
ルーカスの言葉に、明らかにアリシアの体から力が抜けた。
その様子を見てルーカスは自身の気の利かなさを腹立たしく思った。
アリシアはこんなにも不安を感じていたのだ。
「そのことを伝えるのが遅くなって悪かった。正直、あまりにも荒唐無稽な噂だったからすっかり忘れていたくらいだ」
「忘れてたの?」
ルーカスの言葉にアリシアが驚きの声を上げる。
「う…申し訳ない」
ルーカスにとってはあり得ないことだったから悩みもしなかったが、アリシアからしてみれば婚約破棄に関わることだ。
しかも手紙で一度伝えている以上、アリシアから再度問うのは難しかっただろう。
そして答えをはっきりと聞くまでは心配だったに違いない。
最近は以前と比べてだいぶしっかりとしてきたと自分では思っていたが、アリシアの前では形無しだった。
「忘れていたとはいえ誤解を解かなかった私が悪い。いや、忘れていたこと自体が悪いのか?」
自問自答したところでアリシアがくすりと笑う。
「ルーカスがフォティア様に惹かれたのでなかったのなら良かったわ。初恋を思い出してしまったのかと思ったもの」
「…!知っていたのか」
アリシアの言葉に、かつての自分の思いを知られていた気恥ずかしさを感じる。
「私がずっと昔からルーカスを見ていたからよ!」
つまり、ルーカスの気持ちに気づくくらい、アリシアはルーカスを見ていたということだ。
ルーカスは自分の頬がほんのりと赤らむのを止められなかった。
「私にその気は全く、本当に全く無かったが、義母上とフォティア嬢はアリシアと婚約破棄させてフォティア嬢と婚約させたかったようだ」
「ほんの少しも気持ちは揺らがなかったの?」
「当たり前だ」
そこまで聞いてやっとアリシアの顔に笑顔が戻る。
「良かった」
そう呟く姿を見て、ルーカスの胸に愛しさが溢れた。
「誤解が解けたようで安心したよ」
危うくアリシアに勘違いされたままになるところだったことに気づき、しっかりと誤解が解けたことにルーカスは胸を撫で下ろした。
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