絶句
王城から戻ると、イレーネは自身の部屋に入り出てくることはなかった。
執務室でルーカスは家令のイオエルに事の次第を説明する。
この後公爵邸の使用人にどのように説明するかを擦り合わせておく必要があった。
イオエルはしばし沈黙すると口を開けて何かを言おうとし、そしてまた閉じた。
「申し訳ありません旦那様。あまりのことに、言葉が無く…」
「無理もない。私以上に思うことはあるだろう」
長きに渡り公爵家に勤めている身だ。
当主になるまで公爵邸にあまり近づきもしなかったルーカスと違って、込み上げるものは多いはずだった。
公爵邸内で事件があり、その加害者が前公爵夫人のイレーネ、被害者がニコラオスの婚約者だったフォティアとなればその複雑な気持ちは推して知るべしだろう。
「使用人への説明は任せるが、あまりことを荒立てないように。義母上への裁きは公では行われず、ニキアス皇太子殿下の裁量の元下された。今後も表沙汰にはならない。ただし生家の侯爵家の罪については公にされるからその点は考慮するように」
「かしこまりました」
戸惑いながらもイオエルは答えた。
「義母上は3日後にここを発つ。それまで、望まれることはなるべく叶えるようにしてくれ」
そして、とルーカスは続ける。
「フォティア嬢に関しては私が直接伝えるように皇太子殿下より沙汰を下されている」
「フォティア様に、ですか?」
ルーカスはさらにフォティアの件に関しても説明し、イオエルはもはや何も言うこともできず茫然としていた。
冷静な家令の珍しい反応だが、それだけショックが大きいということだろう。
「フォティア嬢は今どうしている?」
「午前中はお休みになられていましたが、今は起きて部屋におられるかと」
「わかった、では話がしたいと伝えてくれ。場所はフォティア嬢の希望通りに。それとお茶の用意も頼む」
指示を出すとイオエルはすぐに下がった。
「ビオン、いるか?」
問いかけに即座に答えが返ってくる。
「ここに」
ビオンが部屋の隅からスッと姿を現した。
「相変わらず神出鬼没だな」
「お褒めに預かり光栄です」
他のことに気を取られていたせいか、ビオンの存在に直前まで気づかなかった。
自分もまだまだだなと思いながらルーカスは事件後の対応について確認する。
「賊はあの後王城から遣いが来て引き取っていきました。集められる限りの物的証拠と、証言をまとめた報告書はつけておきましたので」
「仕事が早くて何よりだ」
「義母上の件は箝口令が敷かれたが、人の口に戸は立てられん。今後しばらく王城や市井の者たちの噂話を集めておいてくれ」
「御意」
ビオンが姿を消したのを見届けて、ルーカスは一つため息をつく。
とりあえず打てる手はすべて打った。
この後フィティアと対峙することを思うと、休めるのはまだまだ先になりそうだった。
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