処罰
「己の欲ばかりを考え他者を排斥しようとしたこと許し難い。また、自らが公爵家を守り盛り立てて行く身でありながら実家と結託し公爵家の財産を浪費、さらには産まれたばかりの赤子を後継に仕立て、その子を傀儡として公爵家を乗っ取ろうとする企みに加担したこと看過することはできぬ」
滔々と、ニキアスの口からイレーネの罪が糾弾されていく。
「よって、イレーネ・ディカイオ前公爵夫人はその位を解き、王家の治める直轄地の修道院行きとする。また、ニコラオス公の子に生涯会いに行くこと許さぬ」
「そんな!」
イレーネが半ば悲鳴のような声を上げるが、ニキアスはそのまま続けた。
「また、被害者であるフォティア・ラルマ伯爵令嬢は被害者ではあるが、イレーネ前公爵夫人と共謀してルーカス公とアリシア伯爵令嬢を陥れようとした件、こちらも捨て置くことはできぬ」
「しかし産後まもないことも鑑み、沙汰はルーカス公によって伝えることとする」
イレーネの見つめる先で、ニキアスははっきりと告げた。
「ニコラオス・ディカイオ公爵令息とフォティア・ラルマ伯爵令嬢の間に産まれた子は本来であればディカイオ公爵家の後継者の権利を有するが、その権利を剥奪する。またその後のフォティア嬢と子どもの処遇はルーカス公に一任する」
「以上だ」
「なんてこと!!」
イレーネは今聞いたことが信じられないとばかりに髪を振り乱す。
「殿下、罪は私にあるだけです。いえ、私とフォティア嬢にあるのでしょう。しかし子どもは関係ありません!どうか、どうか権利の剥奪だけはお許しください!!」
ふらりと床に膝をついたイレーネは伏すように頭を下げた。
ニキアスはため息をつきここにきて初めて感情をその声にのせる。
「イレーネ夫人、元はといえばニコラオスがその命を落としたから今回のことが起こったとわかっている。しかしだからといって罪が許されるわけではない。そして、すべては産まれた子が関係している。権利を残すということは火種を残すということ。王家として国を乱す可能性のあるものをそのままにしておくことはできない」
「そしてどういう思いを持っていたのであれ、他ならぬ孫の未来を閉ざしたのは自分たちだということを忘れてはならないだろう」
そんな…そんな…と泣きながら呟くイレーネに、ニキアスはもう一言かけた。
「イレーネ夫人、いつかディカイオ公爵夫妻が甥を連れて王家直轄地へ旅行に行くことがあるかもしれん。寄付や祈りを捧げるために修道院へ寄ることも。私的な旅行のことまで、王家が関与することはない」
それはつまり、ルーカスがアリシアと共に甥であるニコラオスの子を連れてイレーネに会いに行くことまでは咎めないということ。
イレーネから子どもに会いに行くことは許されないが、イレーネ次第で孫に会う道は残されている。
「また、イレーネ前公爵夫人の件と生家である侯爵家の件は別件として扱う。侯爵家には後日裁判所への出廷を命ずる」
(ああ…これはニキアス皇太子殿下の精一杯の譲歩なのだろう)
イレーネはニキアスの秘められた思いを知る。
「イレーネ夫人、私はニコラオスのことを生涯忘れることはない」
自身のために落とされた命を心に刻んで、この優しい皇太子は厳しい道を行くのだ。
何も言うことができなくなりイレーネは視線を落とした。
瞳からはいまだにはらはらと涙がこぼれる。
「3日後に修道院へ行くための迎えを送る。それまでに身辺の整理と別れを済ませるがいいだろう」
そこまで言うと、ニキアスは退席した。
「義母上」
そっとルーカスがハンカチを差し出す。
イレーネは黙って受け取ると涙を拭いた。
苦い思いを残して、事件は幕を閉じた。
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