母性
「一体何事ですか」
義母の言葉にルーカスは手にしていた紅茶をテーブルに戻した。
ディカイオ公爵家の応接室で、王城からの知らせを待つためにルーカスは義母と向き合っている。
イオエルに指示した通り義母は用意を済ませていた。
「城から呼び出しがあるとのことなので。遣いが来次第向かうことになります」
見る限り、義母の顔色は化粧では誤魔化せないくらい悪い。
昨日の襲撃が失敗に終わったことは伝わっているだろうが、それが城からの呼び出しと繋がっていると思ったのかどうか、その表情からはわからなかった。
それでも、このタイミングでの呼び出しに不審感を募らせているのは見て取れた。
「そもそもまだ遣いが来ているわけではないのになぜ呼び出しがあるなどどわかるのですか」
「早馬で先に知らせが来たのです。詳しくはのちに来る遣いを待てとのことで」
先に義母に知らせたのはいわばルーカスからの温情だった。
早く知れば急に呼び出されるよりは心構えも身支度もできるだろうという。
いくら公爵家夫人でも王城に呼び出されることは稀だ。
当然何か重要な案件があるということは想像がつくだろう。
ましてや何かしらの心当たりがあれば、心穏やかではいられまい。
「そういえば、兄上とフォティア嬢の子にもう会われたとか」
ふと思いついてルーカスは義母にそう問いかけた。
赤子を目にして考えは変わらなかったかと、そう聞きたかった。
可愛い孫から母を奪い、大人の事情を背負わせるのに躊躇いはないのかと。
「ええ、会いました。可愛らしくて元気な男の子。ニコラオスの産まれた時を思い出したわ」
その時義母の顔に浮かんでいた表情はなんと表現したらよいだろう。
まさしく母の微笑み。
(ああ…なぜ)
ルーカスは思わずにはいられなかった。
(なぜあなたは間違えてしまったのか)
産まれた孫に対してちゃんと愛情があるのに。
なぜその子が苦労するとわかっている道を選んでしまったのか。
しかし時間はもう取り戻せない。
起こってしまったことを無かったことにはできないのだから。
「遣いの方がおみえになりました」
ノックの後イオエルと共に使者が入ってくる。
もう後戻りはできなかった。
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