清濁併呑
先ほどの襲撃が嘘かのように、地下は静寂に包まれていた。
専用の通路を進みルーカスは地下牢に入る。
入れば、聞こえるのは賊のうめき声だけ。
「何か吐いたか?」
ルーカスの問いかけにビオンが振り向いた。
「いえ、まだです」
「こいつらは所詮雇われ。侯爵家に忠誠を誓っているわけではないから大丈夫だろうが、毒でもあおられたら厄介だ。気をつけろよ」
ルーカスの言葉に、ビオンは室内にいたもう一人の影に目配せする。
「それだけの気概は見えないですけどね」
襲撃の興奮が冷めていないせいか、ビオンの言葉遣いが若干崩れている。
「…時間をかけるのも無駄だな」
このままでは悪戯に時間だけが過ぎていくことになりそうで、ルーカスはポケットから小瓶を取り出した。
「それは?」
「皇太子殿下から下賜されたありがたい薬だ」
ルーカスの言葉に、ビオンは軽く目を見開く。
「なんだ?」
「いえ、そういった手合いのやり方は好まれないかと思っておりましたので」
たしかに、今までのルーカスであれば何事も正道を求めただろう。
しかしそれでは足りないのだと気づいた。
誰かを守るためには、時として清濁併せ呑むことも必要なのだと。
「薬を用いた証言は証拠として認められないこともあるが、今回はどちらにしろことを公にはしないから問題ない」
ロゴス国において、罪人は裁判所で裁かれる。
ただし何事も例外はあるもので、大っぴらにされることなく密かに裁かれていく者がいるのは公然の秘密だ。
「今回の件も、侯爵家は別の罪状で裁かれるだろう」
そしてルーカスにとって賊たちの証言など形式上必要なものに過ぎない。
もしくは決心を鈍らせないための楔か。
「殿下も早期の解決を望まれている。使えるものは使って、なるべく早く報告を上げるように」
そう言うとルーカスはビオンに小瓶を渡した。
これで計画されていた事件の一番大きな山場は越えたのだろう。
この後は今まで集めてきた証拠を元に侯爵を追及し、さらにはイレーネの罪も白日の下に晒さなければならない。
フォティアの処遇はその後に決めることになる。
長い夜だったように思う。
気づけば、まもなく夜が明けようとしていた。
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