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【本編完結】たとえあなたに選ばれなくても  作者: 神宮寺 あおい@受賞&書籍化


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襲撃

日付を越えた頃だっった。

眠ることなく待機していたルーカスはビオンに声をかけられて部屋を出る。


「動いたか?」

「はい。先ほど門内に侵入しました」


ルーカスの見ていないところでビオンは部下から報告を受けたらしい。

『影』の多くはあまり姿を見せたがらないため、ルーカスが話すのはもっぱらビオンだけだった。


今回は時間が無かったが、『影』に属する人員を一度確認しておく必要があるだろう。

そう思いながらルーカスは移動する。


本来女性の寝室へ入ることが許されるのは夫か血縁の家族だけだ。

しかし今はそんなことを言っている場合ではない。


「赤子はどこにいる?」

「イレーネ様が雇った乳母が預かっています」


つまり今フォティアの部屋には彼女一人。

いかにも都合の良い状況に置かれているということだ。


「賊の人数は?」

「外に3人、中に5人です」

「結構多いな」


相手が多くて負けそうで困るということではない。

人数が多いとその分動きづらいため戦いにくいからだ。


公爵邸本館の2階の端がフォティアに与えられている部屋だ。

1番近い階段から顔を出して廊下を見渡したが、見える範囲に賊はいない。


「侵入経路は窓からと思われます」

「無難なところだな」


辺りは未だ静けさに満ちていてこれから襲撃があるなど思いもよらない雰囲気だ。

ルーカスは腰に差した長剣を今一度確認する。


「外の3人に関しては邸宅周りに配置した者が先に討ってると思います」

「つまり、残りは邸内の5人だけというわけか」


ルーカスは今まであえて大会と名のつくものには出てこなかった。

騎士団員は広報や祭りの盛り上げもかねていろいろな大会に駆り出されることがあるが、頑なに断ってきていた。


だから、ルーカスの剣の実力が国内で5本の指に入るレベルだということはあまり知られていない。


「特に応援は必要ないと思いますが、よろしいでしょうか」

ビオンの問いに、ルーカスは唇の端に笑みを乗せた。


「問題ない」


思えば剣を振るうのも久しぶりだ。

もとより騎士団に所属していたから荒事には慣れている。


ルーカスはここのところ覚えることのなかった緊張感に身が引き締まるのを感じた。

感覚を研ぎ澄ませば、フォティアの部屋の方に微かな気配がある。


「来たようだ」

ルーカスの言葉に、ビオンが足音も立てずにスルスルと部屋へ近づいていく。


あえて作戦を立てる必要すらなかった。

賊の侵入のタイミングが、つまりはこちらも部屋へ入るタイミングとなる。


カチャっという音が耳を掠めた。

賊は応接間から侵入し今寝室の扉に手をかけたのだろう。


ルーカスはビオンと目を合わせると、一気に部屋の扉を開け放った。


部屋へ入ると同時に一人を切り捨てる。

返す刀でもう一人を切り倒した。


あとから証言を取らないといけないため、どちらも致命傷にはならないようにあえて急所は外してある。


そうこうしている内にビオンが残りの3人を制圧した。


「きゃあああああ!!!」


物音で目が覚めたのか、フォティアの絹を裂くような悲鳴が響き渡る。


しかしその頃にはすでに、5人の侵入者は床に倒されうめき声を上げるしかなくなっていた。


目の前の惨事に震えるフォティアをよそに、ビオンが手早く賊の手足を拘束していく。


「地下牢に入れておけ」

「はっ」


ビオンの返事を機にどこからともなく他の影が現れ、床に転がる男たちをあっという間に連れ去っていった。


「フォティア嬢、深夜の寝室に入ったことは謝ろう。見たところ問題はないと思うが、大丈夫か?」


ルーカスの声がけに、フォティアは震える体を抱きしめるだけで何も答えられない。

その騒ぎを聞きつけたのかフォティア付きの侍女が部屋に入ってきた。


「あの、フォティア様の部屋へ行くようにと言われたのですが…」


影から使用人経由で言われたのだろう、何があったのかわからない状態ではあるものの急いでやって来たのがわかる。


「賊の侵入があった。フォティア嬢は怯えているようだから暖かいお茶でも用意してあげるように」


指示を出しルーカスは部屋を後にしようとする。


「ま、待って!!」


このままの状態で置いていかれるのはたまらないとばかりに、震える声でフォティアがルーカスを呼び止めた。


「いったい何があったの?どういうこと?」


恐怖のせいか若干錯乱したままのフォティアの問いかけに、ルーカスは素っ気なく答える。


「フォティア嬢の命を狙った賊が侵入したため取り押さえた。今日は疲れているだろうしもう遅いから休むように。詳しいことは明日以降に話そう」


ルーカスはこの後取り調べに同席するつもりだ。

時間が惜しいこともあり、早く部屋から去りたかった。


「命…」


ルーカスの言葉にフォティアは茫然とする。

フォティアの中では命が狙われる理由などないのであろう。


まだ混乱しているのは見て取れたが、ルーカスにはフォティアが落ち着くまでつき合う気はなかった。


何かわめいて取りすがろうとするフォティアをやんわりと拒否し、そしてルーカスは部屋を後にした。

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