鳴動
昼を過ぎた頃だった。
遠くの方で赤子の泣く声が聞こえ、ルーカスは子どもの誕生を知った。
「ルーカス様」
傍らにビオンが現れる。
「お子さまがお産まれになりました。元気な男の子だそうです」
「そうか」
男の子。
ニコラオスと似ているのだろうか。
ルーカスにとっては甥にあたる子になる。
自分に母親とニコラオス以外の血の繋がりのある存在ができたことにルーカスは不思議なものを感じた。
「賊たちは待機したままです。おそらく動くのは今日の夜になるかと」
「わかった。しばらくそのまま監視を続けてくれ。動く時は私も行こう」
「御意」
短くビオンに指示を出し、ルーカスは家令が報告に来るのを待った。
ほどなくしてドアがノックされる。
「入れ」
「失礼いたします。先ほどフォティア様が元気な男の子をご出産されました。母子ともに健康で問題もございません」
「そうか。それは良かった」
家令はセルジオスの代から仕えている。
ニコラウスのことももちろん幼少期から知っており、その子どもともなると感慨深いものがあるのかもしれない。
「義母上はどうされている?」
「今は侍女を伴われてフォティア様のお見舞いに行かれています」
義母にとっては孫の誕生だ。
初孫の顔を見ることで考えを改め、計画を取り止めてくれればいいのに。
おそらく無理だろうと思いながらも淡い期待が捨てきれなかった。
「いつ頃ならフォティア嬢と赤子の顔を見れるだろうか」
「今しばらくお時間が必要かと」
「会えるようになったらまた教えてくれ」
「かしこまりました」
さて。
彼らはどう出るか。
少なくとも日のあるうちは動きは無いだろう。
勝負は今夜。
イレーネとフォティアと赤子、ルーカスも含めて、今夜運命は鳴動する。
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