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ティータイム

夕方からのデートを控え、アリシアは午後のティータイムを両親と共に過ごしていた。


「そういえば、フォティア様のお祝いは早めに用意した方がいいかしら?」

お気に入りの紅茶に笑顔を浮かべながら言う母の言葉に、アリシアは手元に落としていた視線を上げる。


「まだ妊娠がわかったばかりだと聞きますし、性別もわからなければ出産予定日もはっきりしないと思いますからもう少ししてからでもいいのでは?」

「そうね。何を用意するかによって時間がかかる物もあるけれど、もう少ししてからでもいいかもしれないわね」


こんなにのんびりとしたティータイムは久しぶりだった。

父も母も、日中はそれぞれ出かけていることが多く3人そろうことは珍しい。


「それにしても、婚約しているとはいえ結婚の前に子を授かるなんて、私の時には考えられなかったものだけど」

ほうっとため息をつく母に、アリシアは苦笑した。


「先の戦争で多くの人が亡くなったこともあって、国民を増やすことは今国で一番重要なことと言ってもいいからね」

割にはっきりとものを言う母に対して、父はいつも比較的穏やかな言いようをする。


戦争で国は多くの国民を失った。

国力は人の多さに比例する。

税を納めるにも、畑を耕して食物を手に入れるにも、物を作るにも、何に関しても人を必要とするこの世の中において、人口減というのは国力衰退に直結するのだ。


そこで国は新しい政策を始めた。

今までは婚姻後に産まれた子のみを両家の子と認めていたが、今は婚約中に産まれた子も同じ扱いとなった。


婚約には政略的なものもあれば純粋に気持ちでつながったものもある。

どんな状況であれ、婚約中も含めてなるべく早い段階から子を持ってもらい、少しても多くの子が産まれることを国が推奨しているのだ。


「ディカイオ家は戦争で前公爵が亡くなられているし、ニコラオス公は4公爵の中では1番若くそして後継がいなかった。家の安泰を思えば喜ばしいことだよ」


「お父様、ニコラオス公は結婚と同時に近衞騎士を辞されると聞いていますが、ルーカス様の所属は第1騎士団のままなのかしら?」


アリシアは今日ルーカスに会う時に聞こうと思っていた疑問を、ちょうど良いタイミングとばかりに問いかける。


「どうだろうね。彼は第1の方が合っている気がするが…。王宮が近衞騎士にと希望されるかもしれん」

「この前お会いした時は、結婚後には第1の詰所の近くに住もうかとも話していたのですが」


ルーカスの所属がどこになろうとも、アリシアの生活に大きな変化はないだろう。

ただ、彼にとっては王宮よりも第1騎士団の方が心理的な負担が少ないように感じた。


「まぁその辺りのことはおいおい決めていけばいいだろう。ルーカス卿はおまえの希望も聞いてくれるだろうし、2人でよく話し合うことだ」

父の言葉を区切りに、母が「そういえば」と声を上げた。

「せっかく王都にいるのだから、今から買い物に行きましょう。嫁入りの品物はいくらあっても足りないくらいですからね」


ルーカスとの待ち合わせ時間までに帰って来るには、今からすぐにでも行かなければとはやる母に、アリシアはくすぐったいような気持ちになった。


自分は両親に恵まれていると思う。

子供のことをよく考えてくれる2人の姿を見ながら、ルーカスと家庭を築くならこんな温かい家庭でありたいと願った。


そんな和やかな空気に冷たい風が吹き込むかのように、ドアのノック音が響く。


「旦那様、ご歓談中のところ失礼いたします」


至急の要件とのことで家令が声をかけてきた。

心なしか顔色の悪い家令に疑問を持ったのもつかの間。


「王宮から使いがみえました。…ニコラオス公がお亡くなりになったとのことです」



当たり前の日常は当たり前ではないのだと、なぜ気づかなかったのか。

ただ、好きな人と結婚して穏やかな日々を過ごすことを夢見ていただけなのに。

簡単そうで簡単ではないその夢が、儚い蜃気楼のように消えてしまうのをアリシアは朧げに感じていた。

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