幕間ー不如意ー
思い通りにならないことが増えている。
イレーネはため息をつくと手紙を書き進めていたペンを置いた。
出産後は多くの思いを飲み込んできた人生だった。
最愛のセルジオスが隣国の王女と情を交わすのも、ルーカスの存在も、気持ちの上では拒否しても我慢して受け入れた。
それなのに。
神はイレーネからセルジオスだけでなくニコラオスまで取り上げた。
せめてニコラオスの血を継ぐ子に跡を継がせたくても思い通りにならない。
最初の誤算はフォティアが自信をもっていた計画が頓挫したことだった。
「ルーカスの気を魅くことなんてたやすいと言っていたのに!」
ディカイオ公爵夫人であったイレーネへの遠慮と、実母から言い聞かされてきただろう身の程をわきまえた行動をという考え方、そしてかつて抱いたであろうフォティアへの淡い恋心がまた芽生えれば、ルーカスを御すことは難しくないと思っていた。
そして公爵家の仕事に携わらせなかったことからルーカスが知る由もなかった『影』を使えば、場合によっては邪魔な存在であるアリシアもどうにかできると考えていたのに。
一体どこから影の存在を知ったのか。
挙げ句ここにきてルーカスの態度が変わった。
イレーネへの遠慮もどこかに置いてきてしまったかのような変貌は驚くほどだ。
もともとあれが眠れる獅子だということをイレーネは気づいていた。
その能力を、才能を、開花させないように気をつけていたのに。
ルーカスは素質だけ言えばニコラオスをも凌ぐくらいのものがあった。
おそらくそれにはセルジオスもニコラオスも気づいていただろう。
だからこそ彼らはルーカスを公爵家の仕事に携わらせたがったし、イレーネはそれを反対した。
仕事も影も取り上げられてしまったイレーネには使える手がもうあまり無い。
公爵家の中でイレーネに忠誠を誓う者たちと、実家の伝手をたどって雇える者たちくらいだ。
侍女を呼ぶ気にもならず、冷めてしまった紅茶を飲みながらイレーネは考える。
何か手がないか。
そして、ふと、気づいてしまった。
イレーネにとって今一番大事なことはニコラオスの子がディカイオ公爵家を継ぐことだ。
言ってしまえば子どもが必要なだけであってフォティアはいなくてもいい。
なんなら邪魔ですらあることに。
婚約中に産まれた子の権利は産んだ女性が全てを有する。
しかしフォティアが同意して子を手放しさえすれば、その子をルーカスの養子にすることができた。
もしくはフォティアがいなくなってしまえば同様だ。
ニコラオスの子であることを思えば、養子にすることに対してルーカスは拒否しないだろう。
それはルーカス本人やルーカスとカリス伯爵家に守られているアリシアに手を出すよりもよほど簡単なことに思われた。
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