微笑み
公爵邸に戻ってルーカスが一番最初に手をつけたのは、義母が抱えている仕事や権利をルーカスに帰属させることだった。
先日命じて以降、家令のイオエルは全ての仕事をまずはルーカスの元へ持ってくるようになった。
しかしその後ルーカスが留守にしている間にイレーネが多くの仕事を持って行ってしまう。
イレーネいわく、処理し切れていない仕事を手伝っているのだと。
公爵家、ひいてはルーカスのためにがんばっているのだと言ってはばからない。
実際は仕事を全てルーカスに任せてしまうと都合が悪いからだった。
しかもイレーネの手に負えない案件に関してはひそかに家令や自分の実家に頼って解決しているものもある。
一気に変えてしまうと義母からの反発も大きいと予想されたから、ルーカスは少しずつ削ぐようにイレーネの仕事を減らしていった。
コンコン。
執務室にノックの音が響く。
「はい」
「ルーカス、入りますよ」
イレーネの声に、ルーカスはあえて微笑みを浮かべて迎え入れた。
「呼んでいると聞いたのだけれど?」
「ご足労いただきありがとうございます」
イレーネに椅子を勧め向かい側にルーカスが腰かける。
「義母上、今まで私が未熟なばかりにたくさんお力添えしていただくことになってしまい申し訳ありませんでした」
一体何を言い出すのかと警戒しているのが表情から窺えて、こんなにわかりやすい人だっただろうかと思った。
ルーカスは義母のことをどこか恐れ、絶対に逆らうことができないと思い込んでいたからだ。
いや、思い込まされていたのかもしれない。
目から鱗が落ちる思いだった。
「どういうことかしら?」
「本来公爵家の仕事は当主が全てこなすべきものだと聞いています。今までは全くの未経験だったこともありお手伝いいただいていましたが、そろそろ全ての業務を自分で行うべきかと思いますので」
ルーカスはしっかりとイレーネの目を見返した。
「今月中にでも義母上にみていただいている業務を全て引き継ぎますからそのつもりでいてください」
これは決定事項なのだと、交渉の余地はないのだと思わせるために、ルーカスはつけ入る隙を見せずに言い切った。
「なんですって!?」
「今までありがとうございました」
そして、極上の笑顔で微笑んだ。
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