助言
あきらかにショックを受けているルーカスを、ソティルは仕方ないやつだとでもいうような眼差しで見つめていた。
ソティルにとって小さい頃から知っているルーカスはもう一人の息子と言っても過言ではない。
ルーカスは体だけは一人前になったが、精神面ではアンバランスなまま成長してしまった感じがある。
どこか達観したような冷静さと、弱く未熟な心と。
ルーカスの育った環境を思えば仕方のないことだったのかもしれない。
とはいえ、今はまずこれからのことを相談する必要があった。
「ルーカス殿は王家と公爵家の『影』の存在を知っているか」
「影?」
思い当たる節の無いルーカスの反応にソティルはやはりと呟いた。
公爵家に関わる多くのことを知ることなくきてしまったルーカスの知識は案の定偏っている。
その偏りは、おそらく前公爵夫人によってもたらされたものだ。
「これは王家と4公爵家、そして伯爵家以上の当主には伝えられていることだが、王家と4公爵家には影と言われる存在がある。主に諜報活動や暗殺、裏の仕事を請け負う存在だ」
耳を傾けるルーカスにソティルは続ける。
「ただし、存在は伝えられていても詳しいことは秘匿されている。詳細を知ることができるのは王族と公爵家の当主のみ。そしてその内容は当主から後継者へ直接伝えられていく」
「前公爵とニコラオス公は当然知っていただろう。そして今ディカイオ公爵家の影を使役しているのはイレーネ前公爵夫人だ」
ルーカスの眼差しが強くなったのを感じながらソティルはさらに続けた。
「当主ではなくその夫人が影を行使することは滅多に無いことだが、今回は代替わりが急で公爵家の仕事や権利の一部を前公爵夫人が引き継いだから起こったことだろう」
視線で促されてソティルは一番重要なことを伝える。
「その影が、ここしばらくアリシアの行動を監視していた」
ガタンっと音がしてルーカスが立ち上がった。
「監視だと?」
「そうだ。我が家の護衛が証言している。はっきりとした目的はわかっていないが、アリシアの落ち度を探るためというのが一番考えられることではないかと」
ドサリとルーカスは椅子に座り直した。
「監視とは穏やかでないが、アリシアには落ち度などないだろう?」
「無いものをあるものとする力を公爵家は持っている」
『道理を曲げることさえ可能にする力』
騎士団長に言われた言葉をルーカスは思い出した。
「そしてもう一つ大事なことがある」
ソティルは一通の手紙を取り出すとルーカスに差し出した。
「アリシアは自分の口から直接伝えたかったと言っていたよ」
何が書かれているのか。
良いことか悪いことか、どちらともわからない緊張に包まれながらルーカスはその手紙を受け取った。
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