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【本編完結】たとえあなたに選ばれなくても  作者: 神宮寺 あおい@受賞&書籍化


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すれ違い

リサから噂を聞いて、ルーカスは公爵邸に戻るとすぐにカリス伯爵家へ先触れを出した。

少しでも早くアリシアに会いたい。


気だけは急くが返事のない状態で突然訪ねて行くわけにもいかず、時間だけがじりじりと過ぎていった。


仕事をこなす間も返事が届くのではないかと気もそぞろになっている。


待ちに待った返事が届いたのはその日の夜遅くだった。


『明日の訪問をお待ちしております』


カリス伯爵家当主からの返事に、ルーカスは違和感を覚えた。

いつもであればアリシアから返事がくるはずなのに。


言い知れぬ不安を感じながら、しかし明日にはやっとアリシアに会えると思うとルーカスの胸は弾んだ。



翌日、約束の時間にルーカスはカリス伯爵邸を訪れた。

かなり久しぶりの訪問だからだろうか、どことなく以前と雰囲気が違うように感じて一抹の不安を覚える。


違和感の原因を突き止める前に顔馴染みの執事の案内を受け応接室に通された。


「お待ちしておりました」


応接室にはすでにソティル伯爵が待っていた。


「ご無沙汰してしまい申し訳ない。なかなかアリシアに会いに来れず、心配をかけた」

ルーカスの言葉にソティルはなんとも言えない笑顔を浮かべた。

「いえ、お忙しいというのはわかっていますから」

椅子を勧められてルーカスが腰を下ろすとすぐにお茶がふるまわれる。


「ルーカス公、アリシアに話があるとのことでしたが」

ソティルの問いかけに、その内容もさることながらルーカスは呼ばれ方が居心地悪かった。


「カリス伯、以前のように呼んでいただけるだろうか」

「しかし公爵家を継いで当主になられた方を軽々しくは呼べないかと」


ルーカスにとって、ソティルは幼い頃から自分を見守ってきてくれた数少ない大人だった。

アリシアの兄弟とともに良いことは良い、悪いことは悪いと普通に叱られたのはいい思い出だ。


その点、実の父親であるセルジオスよりもよほど父親のようだった。


「いや、これはこちらがお願いしたいことなので」

「…わかりました。では内輪の場でだけ以前のように呼ばせていただきます」


返事をし、ソティルは改めてルーカスに問う。


「ルーカス殿、今日はアリシアに話があるとか」


「そういえばアリシアの姿が見えないが今はどこに?」

「アリシアは、昨日領地に戻りました」


ルーカスの質問にソティルが答える。


「なんだって?」

驚いて聞き返したルーカスにソティルは冷静に繰り返した。


「アリシアは昨日領地に向けて発ちました」

「手紙には明日発つと書いてあったが?」

「予定が変更となったのです」


ソティルの言葉に、ルーカスは拳を握りしめる。


昨日だなんて。

一日早くアリシアを訪ねていれば会えたのに。


フォティアの買い物につき合っていなければあるいは。

いや、あの場でリサから噂のことを聞いたからこそ、今日ここにいるのではないか。


ルーカスの頭の中をいろいろな思いが駆け巡る。


ただ一つはっきりしていたのは、アリシアに会うことすらできずにすれ違ってしまったということだった。

驚いてばかりいるルーカス。

つっこみどころ満載のルーカス。

見た目とスペックは良いはずなのに残念な青年に育っています…。


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数多の作品の中から読んでいただきありがとうございます。


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