噂
「そちらにみえるのはルーカス様ですか?」
アクセサリーショップでフォティアが店内を見ている間、応接用の席で休憩していたルーカスは不意に声をかけられて振り向いた。
落ち着いたドレスを身にまとった女性はアリシアの友人で先日結婚した女性だ。
「リサ嬢」
「ご無沙汰しております」
挨拶をした後リサはちらりと店内を見回す。
「今日はアリシアと?」
「いや、今日はフォティア嬢のつき添いで」
フォティアの名にリサの眉がぴくりと動いた。
「そうですか…」
返事に含むものを感じ、ルーカスはリサを見る。
「ルーカス様は王都の噂に明るいですか?」
「いや、残念ながら疎いほうだと思うよ」
リサは扇で口元を覆うと、どう言おうか迷うように話し始めた。
「ルーカス様はアリシアではなくフォティア様を優先されていると。アリシアとの婚約を破棄してフォティア様と婚約を結び直すと噂されていますわ」
「…なっ!」
ルーカスの驚いた顔に、リサは「その噂を信じたわけではないが…」と続ける。
「現に今ルーカス様はアリシアではなくフォティア様をエスコートしてみえますし、最近はアリシアと出かけられている姿は全くお見かけしない代わりにフォティア様とご一緒されているお姿ばかりが目撃されておりますので…」
「それは確かにそうだが…。アリシアと婚約破棄してフォティア嬢と婚約を結び直すなんてあり得ない」
「ルーカス様がどうお考えになろうと、そう噂されているのは事実です。何も知らない人であれば信じてしまうかと」
思いもかけない噂にルーカスは心底驚いた。
と、同時に、義母がしきりとフォティアに同行しろと言い、フォティアがどこに行くにもルーカスをつき合わせようとする理由がわかった気がした。
「その噂は全く知らなかったが、教えてもらえて助かった。礼を言う」
「いえ、礼には及びません。アリシアのことが心配なので、ルーカス様が会われる時に私が心配していたことをお伝えいただけると嬉しいです」
「わかった、伝えよう」
リサにはそう答えたが、そもそもルーカス自身がアリシアと会えていない。
しかしそんな噂があるのであれば早急にアリシアに会わなければならないだろう。
アリシアの耳にその噂が届いているのかどうか。
ルーカスは胸がざわつくのを感じずにはいられなかった。
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