不満
すべての仕事をルーカスを通すことにしてから、ルーカスはさらに多忙を極めた。
そのことに対して義母には苦言を呈されたが流されることはなかった。
仕事の合間には義母からの雑事やフォティアの買い物のつき合いをするように厳命されたりと時間はいくらあっても足りない。
それでも、先日来家令も使用人も今までよりルーカスの命に従ってくれるようになったため助かっていた。
とりあえずの様子見なのか今のところ義母が大人しくしているのが気になるが、ルーカスは仕事をできる限り前倒して時間を作ろうとしている。
なんとしてでもアリシアが領地に戻るまでにカリス邸を訪ねたい。
アリシアが発つまであと3日と迫っていた。
『コンコン』
執務室にノックの音が響き、ルーカスは読み込んでいた書類から顔を上げた。
「どうぞ」
許可の声にフォティアが入って来る。
「アクセサリーショップに行きたいの。一緒してくださるかしら」
「馬車は好きに使ってくれていい。護衛はつけよう」
けんもほろろに断るルーカスに、フォティアは不満げな顔を見せた。
「お義母様から、買い物にはなるべくルーカス様と一緒に行くように言われているの。どんな護衛よりもあなたの方が強いから」
少なからず媚を売るような声に、ルーカスは鼻白んだ。
「そんなに心配なら店の者に屋敷まで来て貰えばいい」
「お店に行って品物を見るのが楽しいのよ。持って来てもらうとなると物が限られてしまうし」
店まで行くのが大事なんだと主張するフォティアに、自分の仕事を邪魔するのが目的では?という考えが持ち上がるが、ルーカスはその疑いを一旦頭の隅に追いやった。
こう言い出したフォティアは希望が叶えられるまでしつこい。
さっさと用事を済ませてしまった方が結果的に早く解放されるのがわかっていた。
フォティアはルーカスが自分に魅力を感じているだろうという態度をとってくるが、ルーカスとしては勘違いも甚だしい思いだ。
昔の淡い恋心も消え失せるほど、今のルーカスにとってフォティアは厄介な相手だった。
「わかった。半時だけつき合おう。それ以上は無理だ」
「では、さっそく今から出かけましょう」
ルーカスの言葉にフォティアは嬉しそうに言い出す。
義母から厳命されていなければ。
フォティアがニコラオスの子を身籠もっていなければ。
こんな願いなど突っぱねられただろうか。
腹の底に溜まる何かが、今までなるべく感じないようにしてきた『不満』だということにルーカスも気づき始めていた。
ルーカス覚悟を決めたのでは?という突っ込みを思わず入れてしまいたくなった回でした。
そう簡単に行動を変えることはできないのね…と思いつつ、次回に続きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
数多の作品の中から読んでいただきありがとうございます。
少しでも続きが気になったら、ブックマーク登録、評価などしていただけるととても励みになります。
よろしくお願いします。




