忠告
王城へ行った次の日、ルーカスは第1騎士団の詰所へ出かけた。
事件以降そのままになっていた私物などの受け取りをしなければならないからだ。
ついこの間まで毎日通っていた場所なのにもうかなり前のように感じる。
団員の多くは街の警邏に駆り出されたのか詰所内の人影はまばらだ。
「ルーカス、久しぶりだな」
声をかけてきたのは騎士団長だった。
「ご無沙汰しております。長らくご挨拶に伺えず申し訳ありません」
今はルーカスの方が位は上なんだがなぁと言いながら、団長は団長室へとルーカスを通した。
「私物はここにまとめてあるから必要な物を持って帰ってくれ。いらない物はこちらで処分しよう」
応接セットに向い合い、机の上にルーカスの物を置く。
ルーカスにとってどれも懐かしいものばかりだ。
「結局引き継ぎもできず申し訳なく思っています」
「状況が状況だったから仕方ないだろう。こちらは何とかなっているから気にするな」
団長の態度が団員だった頃と変わらず、ルーカスはどこかホッとしていた。
ルーカスが突然爵位を継いでから手のひらを返したように態度を変える者たちも多くいたからだ。
「家の方はどうだ。落ち着いたか?少し痩せたように思うが…」
ここでも痩せたと指摘されてルーカスは自身の不甲斐なさを感じた。
確かにいろいろなことが回り切らず睡眠も食事も今までに比べると満足に取れていない。
「落ち着いた…と言っていいのかどうか。まだまだだと感じる事の方が多いです」
ルーカスの言葉をどう受け取ったのか、ふむ…と呟くと団長は顎に手をやった。
考え事をする時の癖だ。
「ルーカス、公爵家の力というのはどういうものだと思う?」
「どういう…とは?」
顎から手を外し、膝に両肘をついた団長はその両手を組む。
「道理を曲げることさえ可能にする力、だ。正しく使わなければならない力でもある」
何か知っているのか、そうではないのか。
団長の表情からは何も読み取ることはできない。
「そしてたとえ大きな力を持っていたとしても、望むものを全て手に入れるのは難しい」
望むものを全て…。
言われた言葉を口の中で繰り返す。
「ルーカス、おまえは大きな力を手にした。だがその手で守れるものは少ない。守るべきものを間違えるなよ」
それだけ言うと団長は立ち上がった。
「ところで、時間があるようなら少し手合わせをしていかないか?」
それまでとは打って変わった表情で楽しげに誘ってくる。
「団長に手合わせしていただけるなんて光栄です」
そう答えルーカスもまた立ち上がった。
団長に言われた言葉が、その後もずっと頭から離れなかった。
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