影
カリス邸に戻ってすぐにノエはアリシアと共に父の執務室を訪ねた。
「視線だと?」
「ええ。王都の通りでアリシアお嬢様を監視する視線を感じました」
ノエの言葉にアリシアはぞっとしたものを感じた。
誰かの視線など全く気づかなかった。
それを感じ取ったノエの実力は素晴らしいと思うが、自分が誰とも知れぬ者に見られていたと思うと落ち着かない。
「アリシアが監視される理由など一つしか思い当たらないが…。しかしそこまでするだろうか」
「なりふり構わなくなっているのかも知れません」
父とノエの言葉に、二人には心当たりがあるのだと気づく。
「だが影の行使は当主にしか認められていないはずだ」
「おそらく、前公爵夫人が今はまだその権利を有しているのでしょう」
二人の間だけで理解される会話にアリシアが不安そうな顔をしていたからだろう、父が事の次第を説明してくれた。
「特に公にされていることではないが、王族と4公爵家には『影』と呼ばれる存在がある。その役割は諜報活動から暗殺まで多岐に渡るものだ」
暗殺、と聞いてアリシアの体が震えた。
「今回の影はおそらくディカイオ公爵家の者だろう」
「ディカイオ公爵家は権力の多くを未だ前公爵夫人が握っていると聞きますし、ルーカス公は関知されていないのではないかと思います」
父の言葉にノエが補足する。
「アリシアの落ち度を探るつもりか」
「おそらく」
ノエの返答に、父は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「アリシアの護衛はそのままとするが、時間の空いた時に前公爵夫人の調査に加わってくれ」
「承知いたしました」
二人の間で話が完結し、アリシアはノエに促されて執務室を出る。
「ノエ?」
アリシアの問うような声にノエは少し困ったような顔をした。
「伯爵家にも、公爵家の影ほどではないですが諜報活動をする者がいるんです」
父の言う調査はその者たちが担っているのだろう。
「ではノエも?」
「そうですね。本職は護衛ですが、必要に応じて諜報活動もしています」
父が信を置く護衛はやはりかなり優秀らしい。
そんな護衛に守られていることには安心するが、大きな力が自分に迫っていることにアリシアは不安を隠せなかった。
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