婚約破棄
ディカイオ公爵家へ訪問した翌日、アリシアに追い打ちをかけるかのような手紙がカリス伯爵家へと届いた。
「婚約破棄…ですか?」
「正確には婚約破棄打診書だね」
アリシアの力のない言葉に、父は訂正を入れる。
「婚約破棄依頼書ではないし、見る限りこれは非公式なものだ」
「非公式とは?」
婚約破棄に公式も非公式もあるものか。
アリシアは半ば投げやりになりながら問い返す。
「今回の婚約を破棄するならば本来は当主であるルーカス公から婚約破棄依頼書が届くはずなんだが、これは前公爵夫人からの打診書だ。つまり、正式なものではない」
打診書…とアリシアは呟いた。
「婚約は家同士の契約だからね。今回のようにこちらにはなんの落ち度も無い場合、あちらから一方的に破棄することはできない」
ならばなぜそんな書類が届いたのか。
「ただ、ディカイオ公爵家とカリス家では家格が違うし、家によっては打診書が届けば破棄する家もある。つまりこれは前公爵夫人からの圧力だ」
ルーカスの出自の関係もあって前公爵夫人とはまだそれほど会ってはいないが、婚約に関して今まで何も言ってこなかったのに急にこんなことを言い出したのには何か訳があるのだろうか。
「私としてはアリシアの気持ちを一番に尊重したいと思っているよ。…お腹の子のこともあるしね」
父の言葉に、アリシアはそっと自身の腹に手を置いた。
外から見る分にはまだ何の変化も無いが、確かにここに息づく命がある。
「お父様、私はルーカスと婚約破棄するつもりはありません。彼が今どう思って何を考えているかはわからないけれど…」
「そうだね。まずはルーカス公にも真意をたださなければならない。そして前公爵夫人の意図も調べておいた方が良さそうだ」
まずはアリシアの意思を確認したかっただけだったのか、父はそこで話を切り上げた。
これからどうなるのか、不安に包まれるアリシアはもちろん知らなかった。
すでに先んじて前公爵夫人が王城へ婚約破棄依頼書を出していたことを。
そしてその依頼書がニキアス皇太子の手元に留め置かれていることを。
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