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「ルーカス、あなたはディカイオ家のみなさまの言うことをよくきき、身の程をわきまえた行動をしなければなりません」


耳の奥に響く懐かしい声。

思い出すのはいつでも凛として前を向いていた姿。

王女であった矜持を持ちつつも、母はいつもそうルーカスに言い聞かせていた。


目立たないこと、わきまえた行動をとること、それがひいては自身の安全につながるのだということを、きっと母はよくわかっていたに違いない。


戦争の補償、いわば人質としての隣国への輿入れ。

仲睦まじい夫婦の間に割り込む異分子として、決して歓迎されない立場はどうすることもできなかった。


だから母は生き延びるための処世術をルーカスに叩き込んだ。

産まれてきたルーカスの容姿にトウ国の特徴が強く表れていたことも関係していたのかもしれない。


イリオン国でもロゴス国でも、異色な色合いは喜ばれないから。


父である前公爵は、自分にとってはどこまでいってもロゴス国公爵でしかなく父親という感覚はなかった。


かといってルーカスの存在が蔑ろにされていたわけではない。

公爵家の一員としてきちんと教育は受けさせてもらえたし、適性があった武術や剣術に関しては特別な指導者もつけてもらえた。


前公爵は基本的に王都に住んでおり、必要な時に領地の別荘に来るくらいだったから純粋に接する機会が少なかったせいもある。


ルーカスは自身の置かれている状況が心配になって母に聞いたことがある。


なぜ、自分を産んだのか。


母の回答は明快だった。


子供が欲しかったから、と。


長じてその言葉について考えたことがある。

母は自分だけの家族が欲しかったのではないかと。


異国の地で味方は誰もいない。

前公爵も母を尊重はすれども純粋な家族にはなり得なかった。


だからこそただ一人の家族を、心置きなく自分が心を傾けられて、そして愛し愛される家族が欲しかったのではないかと。


今となってはわからないことだけど。


ただ、母の言葉は良くも悪くもルーカスを縛った。


身の程をわきまえていたから受け入れられた部分もある。

そして母の教えを守るからこそ、自分が心のままに振るまえないのを、ルーカスは気づいていた。

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