番外編 テリオスのつぶやき<8>
その日のミリヤの仕事は屋敷からごく近い商店街への買い出しだった。
いつもであれば商店の人が必要に応じて商品を持ってきてくれるんだけど、今日だけは都合がつかないみたいで。
そしてそういう日に限ってたまたま必要な物が出たりするのだ。
「卵と牛乳がないの?」
「そうです。前回の納品の時に品切れになっていたようで」
どちらもよく使う食材だから在庫が無くなるなんて滅多なことではない。
しかし先日商店へ牛乳を納品する業者と卵を納品する業者の馬車が通りで事故を起こしたようで、その時に多くの商品が使い物にならなくなってしまったとか。
その影響で僕の屋敷にも卵と牛乳が届かなかったらしい。
「どちらもテリオス様の食事に必要な物ですので」
僕には栄養のことなんてよくわからないけど、成長のためにも食事に取り入れたい物なのだとか。
今僕は屋敷の裏口をミリヤの後をついてこっそりと出たところだった。
じいやとばあやには少し体がだるいから寝ると言って一人にしてもらった。
夕食の時間まで寝るつもりだから起こさないようにと念押しもしておいたからこっそりと抜け出したことがばれることもないと思う。
まだ昼過ぎだし、夕方までに帰ってこればいいよね。
ミリヤも商店街はすぐ近くだと言っていたからそれほど時間はかからないだろう。
ミリヤは片手に買った商品を入れるための籠を持ち、反対の手で僕と手を繋いでくれている。
おそらく外で迷子にでもなったら困るからだ。
じいやもばあやもミリヤもいつも僕のお世話をしてくれるけれど、小さい時や病気になった時以外でこんな風に手を繋ぐことはあまりない。
最近ではルナが一ヶ月留守にすると聞いた時くらいだろう。
そういう時に僕と彼らとの間には厳密に階級というものが存在しているのだと感じる。
叔父さんが来てくれた時は抱っこしてくれたり肩車をしてくれたり、もちろん手を繋いでくれたこともあった。
でも叔父さん自身がそれほど頻繁に来れるわけではないから、手を繋ぐこと自体が久しぶりだ。
人の手って温かいな。
そんなことを感じながら僕はミリヤと屋敷から下の通り道へと続く坂道を歩いていく。
僕の屋敷には馬車がない。
そもそも基本的に誰も屋敷から出ないこともあって必要がなかったからだ。
だからどうしてもの時は歩いていくしかないのだけど。
それすらも冒険のように感じで、僕はワクワクしていたのだ。
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