番外編 テリオスのつぶやき<5>
僕の世話は基本的にばあやがしてくれる。
でもばあやも年だし仕事内容によってはミリヤが担当することもあった。
僕は基本的に屋敷から出ることがないからしばしばミリヤの仕事中に遭遇する。
そもそも小さい時は仕事をするルナの後ろをついて回っていた時もあったし、僕にとっては自分が部屋にいる時に掃除されることも気にならなかった。
だから、それまでと同じように僕はミリヤが掃除を始めても気にせずにそのまま部屋で読書を続けている。
そんな僕が不思議だったのかそれとも同じ空間にいながら一言も話さないことが苦痛だったのか、ミリアが話しかけてきた。
もちろん、屋敷によっては使用人から主人へ声をかけるなんて許されないところもあると思う。
でも僕のいる屋敷でそれをしてしまうと、それこそ僕は誰とも話せなくなってしまうから。
だから使用人から話しかけることを禁止していなかったし、そのことはミリヤにも伝えていた。
「テリオス様はお屋敷からは出ないのですか?」
そんな質問をしてくるということは、ミリヤは僕の事情をあまり知らないのかもしれない。
と言いながら、本当は僕も詳しくは知らないのだけど。
僕のお父さんは偉い人をかばって亡くなってしまったこと。
事情があって僕はこの屋敷から出ることは難しいということ。
僕が知っているのはたったこれだけだ。
お母さんのことは誰も教えてくれないからどんな人だったのかもわからない。
屋敷から出られないと言っても屋敷自体は広いし、中庭や裏庭、表にはそれほど大きくないとはいえ庭園もある。
小さな子どもが遊ぶ場所には困らなかった。
だから僕も不満なんてなかったんだけど。
なぜだろう。
最近無性に外に出てみたいと思うことが増えた。
ミリヤが来て環境が変わったから?
じいやとばあやとルナがいて、時々叔父さんが来て。
僕の毎日には何の変化もなかったからそういうものだと思っていたけれど。
『外には何があるのだろう?』
『同じくらいの年の子は何をしているんだろう?』
そんな疑問が湧いてくる。
「うん。僕はこの屋敷から出られないんだ」
そう返答した僕をミリヤが無言で見つめてきたけれど、その瞳が不思議な色合いをしていることに気づいた。
あとで思い返してみれば、あれはミリアの心が表れていたのだと思う。
読んでいただきありがとうございます。
少しでも続きが気になりましたら、ブックマーク登録や評価などしていただけるととても励みになります。
よろしくお願いします。