番外編 テリオスのつぶやき<3>
僕のいる屋敷の使用人は紹介状があってさらには本人の身元の確かな人でなければ雇えない。
以前じいやがそんなことを言っていた。
そんな人たくさんいるのでは?
と思ったけれど、なかなか使用人が増えなかったことを考えると案外そういう人は少ないのかもしれない。
だから、じいやが侍女の募集をかけたとして果たしてすぐに人が見つかるのかはあまり期待していなかった。
「テリオス様。今回は一ヶ月だけという期間限定であることと急な募集ということで、侍女の身元を確実に洗うことができませんでした」
「でも紹介状はあったんでしょう?」
「はい。王都の伯爵家からの紹介でしたが。一応わかる範囲で調べたところ本人にも問題はありませんでした」
ならそれ以上僕には何も言うことはない。
ただ……。
「その女性はなぜ王都ではなく公爵領で働くことを選んだんだろう?」
そこは気になるところだった。
だって普通は領地よりも王都で働きたいと思う人の方が多い。
そこをあえて公爵領で、となると、何か王都にいたくない理由でもあるのかもしれない。
「そうですね。紹介者の伯爵によるとその女性は婚約者がいたのですが、その婚約が破棄されてしまったようで。相手が王都にいるからそこから離れたいと言う理由でした」
「そう」
婚約破棄ともなると女性には大変な事件だと思う。
とはいえ、いったいどんな理由があって破棄されたのかは気になるよね。
「婚約破棄の理由は聞いたの?」
「はい。何でも相手が心変わりしたとのことです」
「そうなんだ……」
結婚を約束していたのにその約束を破ってしまうなんて。
そんなに簡単に破れる約束なんてしなければいいのに。
僕はそういうのは嫌いだ。
約束したのならその約束は何としてでも守りたいし、逆に守れないような約束なら最初からしない。
もちろん、子どもの僕とは違って大人にはいろいろと難しい理由もあるのだろうけど。
そういえば、叔父さんは僕との約束を破らない。
来ると言ったら必ず来てくれるし、来られない場合は安易な約束は交わさない。
無理な時は事情を説明してはっきりと断ってくれる。
その姿勢を厳しいと言う人もいるけれど、無駄な期待を持たせないのはある意味相手に対する思いやりなんだと思う。
そんなことを何となく思い出しつつ、僕はじいやにわかったと答えた。