番外編 テリオスのつぶやき<2>
ある日ルナが一ヶ月のお休みを取ると言った。
何でも、もうすぐルナの娘さんが出産するらしい。
出産って、子どもを産むってことだよね?
すごく大変だし、家族の協力が必要なんだって。
娘さんの旦那さんは仕事の関係でそばにいられないから、その代わりにルナがそばにいることになったって言っていた。
ルナは住み込みで働いてくれているから一日に一度も顔を合わせなくなるだなんて想像もできない。
僕はルナが一ヶ月もいなくなっちゃうなんて嫌だったけれど、でもそんなわがままは言えないよね。
寂しくても笑顔で送り出してあげないと。
だから、僕はルナに言ったんだ。
「大丈夫だよ。僕ももう五歳なんだから。ルナが戻ってくる頃には何でも自分でできるようになってるかも!」
僕の言葉にルナは申し訳なさそうに謝ろうとしたけど僕は『ごめん』なんて聞きたくなかった。
「ルナ、戻ってきたら産まれた赤ちゃんのこと聞かせてね。楽しみにしてる」
そしてさらに、僕はルナと手を繋ぐとその手を振りながら「男の子かな? それとも女の子かな?」と楽しそうに言う。
いつも僕のためを思ってくれるルナのことを僕だって大切に思っていたから。
僕のことを心配するんじゃなくて娘さんと赤ちゃんのことを心配して欲しかった。
「テリオス様。必ず一ヶ月後には戻って参りますから。それまでご迷惑をおかけいたします」
「ルナの家族なら僕にとっても大事な人たちでしょう? 迷惑だなんて思わないで」
僕の言葉の何がルナの心に刺さってしまったのか、なぜか少しだけ涙ぐんだルナは、それでもその日の午後荷物をまとめて屋敷を出て行った。
元々住む人の少ない屋敷だ。
それなりの広さがあるのに、住んでいるのは僕とじいやとばあや、そしてルナだけ。
たまに庭の手入れに庭師さんが来たり、食材の配達に商家の人が来たりするけど、基本的には四人しかいない。
ただでさえ少ない住人の中で一人減っただけでもその影響は大きかった。
「テリオス様」
だから。
じいやが僕にその提案をしてくることは想像がついていた。
「なあに?」
「ルナが娘の出産で屋敷を開ける一ヶ月間、さすがに私たちだけでは家のことを賄うことができません。それで、期間限定で侍女を雇いたいと思いますが、いかがでしょうか?」
「そうだね。うん。それがいいと思う」
本当はじいやは僕の意見なんて聞かずに決めてしまってもいいんだと思う。
一応この屋敷で一番位が高いのが僕みたいなんだけど、しょせん子どもでは何もできないのだから。
子どもは大人の協力がなければ生きていくことすら難しい。
それでも、じいやがこうして僕に聞いてくれるのは、きっと僕の立場を尊重してくれているから。
まぁでも、聞くまでもなく、一ヶ月もの間じいやとばあやと僕の三人だけで過ごすのは無理だと思うよ?
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